第350回  血と骨 - 11 酸素運搬

第349回 「血と骨 - 10 タンパク質」 より続く

 さて、人間の赤い血の源であるヘモグロビンの殆どを占めるタンパク質・グロビンは、

の、複雑な構造を持つタンパク質である事を見て来ました。


ヒトのヘモグロビン

 ところが、グロビン自身には色がある訳ではありません。先にご紹介した様に、血の赤い色の主役を担っているのは、

  ヘム = 鉄 + ポルフィリン

です。



(赤線がポルフィリン骨格;同一平面状に平たく広がる)  

 では、この平べったい構造のヘムは一体どこに居て、どの様にグロビン・タンパクと関わっているのでしょうか。そこで、ミミズの様にのたくっているタンパクの内部をよく見ると、下図の赤色部分にヘムが隠れて居るのがわかります。

 螺旋を描きながら複雑に折れ曲がっているタンパク質の隙間にヘムがポコッとはまり込んだ様な格好です。しかし、ヘムはここに只挟まっているだけではありません。と言ってもこれでは見辛いですね。そこで、上のミミズ構造をそっと伸ばしてみたのが下図です。

 AからHまでは実際には螺旋を巻いている直線部分です。これらが折り畳まれてミミズ構造を作っています。さて、この中でヘム(上図では平べったい構造を横から見ています)は、F鎖中にあるヒスチジンと言うアミノ酸ユニットと結びついているのです。つまりヘモグロビンには150個近いアミノ酸が並んでいるのに、ヘムはどれもこれも必ずこのF鎖のヒスチジンを選んでくっついているのです。何だかそれって凄い事だと思いませんか。こんな複雑な構造の中でベスト・ポジションをどうやって見つけるのでしょう。

 さて、ではヒスチジンがヘムにくっ付いているってどう言う事なのでしょう。そこで、まずヘムの構造をもう一度見直します。ヘムの中心の鉄(Fe)は、ポルフィリン骨格の4つの窒素(N)と結びついています。

 ところが、当シリーズの「血と骨-その7 鉄の色」で見たように、鉄は、四方及び上下の計6箇所で他のイオンや化合物と結び付く事が出来ます。

 と言う事は、窒素で四方を囲まれているだけのヘムの鉄は、上下に更に空き部屋を持っている事になります。そう、正しくその通りなのです。

 グロビンF鎖にあるヒスチジン中の窒素(N)が、その一方を押さえてヘム中の鉄と結び付くのです。こうして、ヘムはグロビンの隙間にはまり込んでいるだけでなく、グロビン鎖と化学的にくっついて固定される事になります。

 でも、これでも鉄(Fe)の周りは5つの窒素に囲まれているに過ぎません。まだもう一つ空き部屋があります。実は、残りのこの一部屋こそが重要なのです。酸素分子がここに入るのです。これで鉄の回り6箇所が押さえられて鉄は安定化されました。

 そう、ヘモグロビンの最重要任務である酸素運搬の機能の中心はここにあったのです。実際のヘモグロビンは上記の基本ユニットが4つくっ付いて出来上がっているので、ヘモグロビン1分子で4分子の酸素を運搬している事になります。


ヘモグロビンの4ユニット

 でも、ヘモグロビン4ユニット全体で凡そ 64,500 程度の分子量です。そんな巨大なタンパク質で分子量が僅か32の酸素分子をたった4つ運んでいるだけなのです。タンカーでサラダオイルを一瓶だけ運んでいる様なものです。何だかとても無駄な事をしている様に見えませんか。いえいえ、決してそんな事はないのです。そこにはヘモグロビンの深慮遠謀が隠されていたのでした。

 血の赤い色の話はまだ出て来ませんが、もう少しお付き合い下さい。


参照:

第353回 「血と骨-第353回 動脈・静脈」に続く

2009/10/31 記

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