第349回  血と骨 - 10 タンパク質

第348回 「血と骨 - 9 ポルフィリン」 より続く

 さて、イカの青い血を考える前に、人間の赤い血の色の仕組みを更に探ります。

人間の赤い血の主役を担うヘモグロビンは、

  ヘム + グロビン(タンパク質)

からなり、そのヘムは、

  ポルフィリン + 鉄

から出来ていました。そして、血の赤に一番寄与しているのはポルフィリンの骨格なのでした。では、グロビンは血の赤さに何も影響していないのでしょうか。いやいや、そんな事はないのです。そこで今回は、ヘモグロビン分子の大部分を構成するタンパク質・グロビンを詳しく調べます。

 まず、タンパク質とはアミノ酸と呼ばれるユニットが幾つも繋がった高分子です。では、アミノ酸とは何なのでしょうか。

 上は、アミノ酸の中でも最も簡単なグリシンの構造です。この分子式の水色の四角部分を共通部品として持つ生体分子がアミノ酸です。この共通部分には、「アミノ」基とカルボン「酸」と呼ばれるパーツがあるので、合わせて「アミノ酸」と言う訳です。

 そして、この共通部分に様々な構造がくっ付いて種々に異なったアミノ酸が出来上がるのです。例えば、上に挙げたのは味の素の原料でお馴染みのグルタミン酸、そして、これから調べるグロブリンで重要な役割を果たすヒスチジンです。

 これらのアミノ酸が上図の様に、アミノ基とカルボン酸で繋がったものがタンパク質です。そして、タンパク質の基本ユニットとなるアミノ酸は20種類あります。ヘモグロビンを形作るグロビンも、女性に意味もなく有難がられるコラーゲンも、胃でタンパク質を分解する酵素であるペプシンも全てタンパク質であり、それらの違いは、

が違うだけなのです。つまり、英語は26字のアルファベットで書き表されるのと同じ様に、タンパク質は20文字のアミノ酸で書き表される分子の文章なのです。タンパク質によってその文章の長さも異なります。

 更に驚くべきなのは、ゾウリムシから人間に到るまで、あらゆる生物のタンパク質が基本的には同じ20種のアミノ酸で出来ていると言う事です。数十億年の時間を費やして生物は様々な形や大きさ・機能を発達させて来たのですが、その分子的な部品は全く変わっていないと言うのは驚きです。「生物は長い時間を掛けて進化して来た」と言う事を強く後押しする証拠と言えます。

 と言う事で、タンパク質で一番大切なのはアミノ酸の繋がりです。たとえば、ヘモグロビンでは、

  バリン - ロイシン - セリン - プロリン - アラニン - アスパラギン酸 - ・・・・

と言う具合に140個余りのアミノ酸が繋がっています。この様なアミノ酸の繋がりをタンパク質の「一次構造」と呼んでいます。

 ところが、実際にはヘモグロビンは上の様にアミノ酸がただ鎖状に繋がっているだけではないのです。

 アミノ酸の鎖状の繋がりを3次元で見ると、ヘモグロビンは上の図の様にバネ状に螺旋を巻いているのです。これを、タンパク質の「2次構造」と呼んでいます。しかし実際には、このようなバネが赤血球の中でただポロリンと転がっているだけではなく、下図の様に複雑に絡んだ構造を作っているのです。


ヘモグロビン構造

 クルクルと巻いている螺旋があちらこちらで折れ曲がって、ミミズの様なややこしい構造を形作っています。何だかデタラメにのたくっている様に見えますが、どれもこれもA〜Hまでの8本の直線部分が規則正しく折れ曲がって出来上がっているのです。この様な螺旋の複雑な構造をタンパク質の「3次構造」と呼んでいます。

 ところが、ヘモグロビンはこれだけではないのです。下図をご覧下さい。グネグネのミミズ同士が更に絡み合っているいるかの様に見えます。


ヘモグロビンの4ユニット

 実際のヘモグロビンは、螺旋のミミズ構造体4つが集まって機能しているのです。上の図では分り難いかも知れませんが、下図の様にミミズ構造体が正四面体の頂点に位置する形で互いに接しているのです。

これをタンパク質の「4次構造」と呼んでいます。

 つまり、ヘモグロビンは、

と言う複雑極まりない構造なのです。でも、意味も無いのにこんな構造をしている訳ではありません。これはヘモグロビンの働きに一体どの様に寄与しているのでしょう。そして、それが血の色とどういう関係があるのでしょう。更に、ヘモグロビンの色の主役でありながら今回の話に全く出て来なかったポルフィリンは一体どこに居るのでしょう。


参照:

第350回 「血と骨-11 酸素運搬」へ続く

2009/10/15 記

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