第337回  血と骨 - 2 イカの血は見えるか?

第336回 「血と骨 - プロローグ」 より続く

 さてでは、「イカの血は青い」と言う事を一体どの様にして確かめればよいのでしょう。この問題で僕の頭を悩ませるのは、

  「どんなに新鮮なイカを捌いても青い血なんて見た事がない」

と言う事です。

 例えば下の写真をご覧下さい。

 これは、或る日、定置網から水揚げされたばかりのスルメイカを港で買って直ぐに捌いたものです。まだ僅かに動いています。恐らく、この1時間前にはまだ海の中を悠々と泳いでいたのです。どんな魚屋さんに行ってもこれ以上の鮮度のイカを手に入れる事など出来ないでしょう。

 そこまで新鮮なのにどうでしょう。青い血など見受けられません。敢えて言えば、矢印の墨袋の部分が青黒く輝いて見えるという程度です。でも、これを青い血とは呼び得ない様な気がします。だから、

  「本当にイカの血は青いのか?」

の疑念が改めて涌いて来るのでした。例えば牛肉ならば、屠殺されてから何日経っても冷蔵庫に入れておけば「血も滴る様な」赤さを維持しています。それが、イカの場合は「死にたて」であっっても血も滴る青さなどは感じられないのです。それは何故なのでしょう。

  「不思議だなぁ」

と言う事で、このイカはひとまず刺身にして頂いたのでした。冬特有の大きな肝で肝醤油をつけて・・・

  「おいちぃ〜!」

朝早くから絶叫するのでありました。

 さて、僕が知る限り唯一の「イカの青い血の目撃者」であるタラバブルー隊員の言うように、ピンピンに生きて居る状態でなくては目の覚めるような青い血を確かめる事は出来ないのでしょうか。となると、海の中で捌いて見るか、定置網漁の船に乗せて貰って網から揚がった直後に確かめるしかありません。どちらも難しそうです。

 ところが、イカの青い血探しは意外な展開を見せたのでした。三浦半島の三崎漁港でスルメイカを商っておられる方が知人にいます。イカ好きの僕には何とも羨ましいお仕事です。ただし、その方の扱うイカは冷凍のイカばかりです。その方が、先だってお年賀代わりとして15ハイ近いスルメイカの入った冷凍パックを送って下さったのです。

  「うれしい〜っ!」

 我が家の冷蔵庫のフリーザーに眠ったままになっている死蔵食材をすべて取り出して、頂いた冷凍イカで一杯にしました。何とも幸せな光景です。では、早速頂いてみることにしましょう。このイカは解凍すれば刺身に出来るそうなので、まな板の上に暫く置いておきました。30分程してパーシャル解凍になった時点で腹側(漏斗のある側、体が白っぽく見える側、泳ぐ時の下側)をハサミで開いてみました。イカを捌く時には雌雄の別を確かめ、生殖腺の成熟具合を見る為にいつもこの様なプロセスです。そうして、体を開いて見た時に驚きました。

  「あっ、青い!」

 エラの部分、特に写真中の矢印で示した右側のエラが青々としています。その他にも体の各部が青く滲んでいるではないですか。これこそイカの青い血を留めている姿に違いありません。

 でも、なぜなのでしょう。これは冷凍イカですから水揚げされてから何日も、ひょっとしたら何週間も経っているかもしれません。死にたてのイカには見られなかった青さが、死後遙かに長時間を経たイカでなぜ見る事が出来るのでしょうか。

 冷凍された事と何か関係があるのでしょうか。そこで、可食部をお刺身で美味しく頂いてから、はらわた部はそのまま部屋に放置してみました。

 それから凡そ2時間後の状態が上の写真です。冷凍は完全に解けています。それでもエラや各部の青さは先ほどと全く変わりません。凍っていたから青かったと言う訳ではないのです。

 冷凍イカでは見られる青い血が、死にたての鮮度抜群のイカではなぜ見られないのでしょうか。イカ探偵の捜査は更に続きます。

第338回 「血と骨 - その3 生きたイカを追う」に続く

2009/01/29 記

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