第296回  食品偽装

第270回 「目黒のヒジキ」 より続く

 さて、12月になると何故か

  「う〜む、この1年は」

などと振り返ってしまいます。暦なんて人間が勝手に定めた区切りに過ぎないのに不思議なものです。それにしても、今年も富戸の海でたっぷり遊ばせて貰いました。しかし、実はまだ片が付いていない問題もあるのです。その一つがこれです。

 この春に、富戸の海岸に流れ着いたヒジキを自分の手で下拵えして酢の物で頂いた事がありました。これまで食べて来た真っ黒なものとは異なり緑色から茶色のヒジキではありましたが、シャキシャキした歯応えが非常に心地よい出来でした。これまでのヒジキへの認識を一変させるほどの鮮烈さに満足したのでありました。

 でも、その一方で

  「じゃあ、これまで食べてきた真っ黒なヒジキは一体何だったんだ?」

と言う問題は残ったままだったです。いや、実はこれもちゃんと確かめていたのです。我々が普通口にしているヒジキと言うのは、火を通した後に干してあるのだそうです。そこで、それを試してみました。

 茹でたヒジキを干物用の網に広げて日陰に吊るしました。そして、2日もすると下の通りです。

 カチカチに縮れて真っ黒になりました。なるほど、これが我々が普段見慣れたヒジキなのですね。でも、これを戻して油揚げなんかと一緒に煮たのではありきたりでちょっと面白くありません。と言う事で、この干しヒジキは我が家の食器棚の隅で息を潜めて眠る事になってしまったのでした。

 そんな時です。カニレンジャー食品部長の重責にあるタラバイエロー隊員が何やらコピー紙を打ち振りながら息せき切って遣って来ました。

  「ヒジキクッキーなんて言うお菓子のレシピを見つけたぞ〜」

と言うのです。

  「えっ? ヒジキの入ったクッキー? 何だか胡散臭そうだなぁ」

とは思うものの、胡散臭い物に逆についつい引き付けられてしまうのも僕の悲しい性です。そこで、早速試してみる事にしました。


 半年振りに取り出した乾燥ヒジキを水で戻すと、ボールの中で何倍にも膨れ上がりました。その上、元の茶色っぽい色に戻ってしまった様に思えます。あれっ? 色は含有する水分で変化しているに過ぎないのでしょうか。ま、いいや。気にしない、気にしない。

 そして、以上がヒジキクッキーに必要な材料です。そこでまず、ボールのサラダ油に黒糖を加えて混ぜた後、卵白、ヒジキ、白ゴマ、おから、薄力粉を順に混ぜながら加えました。

 これをクッキング・シートの上に薄く小さく広げます。そして、160℃のオーブンで凡そ25分間焼きました。

 さあ出来ました。オーブンから取り出した途端、台所中にこうばしい香りが広がりました。でも、クッキー自身は、地味で無骨な形と色合いです。いやいや、見た目ではありません。僕が好きなのは「おばあちゃんのおやつ」みたいに素朴で飽きの来ないお菓子です。そこで、早速一つを摘んで試食してみました。ポリポリポリ。

  「ほう、なるほど」

それなりの年だから、バターや生クリームがドッサリ入ったものはちょっともたれるなと感じる場合も多いのですが、今回のヒジキ・クッキーはあっさりとしてるのに黒糖のコクのある甘さがしっかり感じられ、お茶のお供に最適です。また、

  「おからなんて何の為に入れるんだろう?」

と不思議だったのですが、食べてみて少し納得しました。薄力粉と卵白だけだと少し硬くなり過ぎるので、それをサクサク感にまで引き戻す為のものだったのだろうと思われました。でも、僕の好みでは、おからはもう少し減らして歯応えを出したかったなと思います。

 ところが、肝心の所で疑問が残りました。それは、

  「このクッキーにヒジキは本当に必要だったのか?」

と言う点です。黒糖の甘さと、ゴマの香り、そして程よいサクサク感だけでよかった様に思います。ヒジキはクッキーの邪魔はしていないけれど特別な仕事もしていないのではないでしょうか。い、いやいや、僕がそんな事を言ってはいけません。

  「富戸産ヒジキのクッキーはやっぱり美味しいなぁ」

が結論でなくてはならないのです。

  「いやぁ、これだったら売り物になるんじゃないのかな」

でなくてはならないのです。そこで、「予定の結論」通りに商品化に向けてパッケージを作ってみました。そうそう、こんな時代だから食品の表示ラベルもしっかりとね。原材料は、含有量の多いものから順番に書かなくてはならないんですよね。そこをいい加減にしてると崎陽軒のシュウマイみたいにマスコミから叩かれてしまいます。賞味期限も間違いの無いように。

 ちなみに、上の写真で賞味期限が書き換えられている様に見えるかも知れませんが、これは事務処理上の単純なミスであり、決して偽装しようとした訳ではありませんので誤解のない様に。

 さあ、このクッキーで富戸に新しいビジネスを興しますよぉ〜。まずは全国のアンテナ・ショップに卸してみましょう。良い感触が得られたら本格生産です。商品名も「ヒジキクッキー」では硬いから略して「ヒッキー」にしようかな。TV広告もバンバン打つのです。バックに流れるCMソングは、当然、ヒッキーの愛称で今も若い人に人気の宇多田ヒカルです。

  ♪ You are always gonna be my love
     いつかまた誰かとヒジキ食べても  ♪ 

                  (宇多田ヒカル “First Love” より)

切ない歌声に誘われるように、人々はお店に殺到です。売れる! 今度こそ売れるぞっ!

2007/12/10 記

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