
それを初めて見たのはオキタナゴでした。
10月に入った頃から、オキタナゴが浅場で大きな群れを作り始めました。例年この頃から、交尾の為なのでしょう、オキタナゴが磯に集まって来ます。しかし、今年は規模が違いました。数千を超えると思える程の巨大で濃密な群れが、川の流れの様にゆったりと漂っていたのでした。ところが、その個々のオキタナゴの体表にカビの様な白い物が点々と広がっているのに気付きました。そして、銀色に輝いている筈の鱗の光がどこか鈍く、鱗がささくれている様に見えるものも居ました。気が付くと、それは瞬く間に殆どのオキタナゴに広がって行き、1〜2週間後には殆どのオキタナゴの体表がこの白いカビに覆われてしまったのでした。

そして驚いたのは、このカビはオキタナゴだけでなくハコフグの硬い甲羅をも蝕み始めた事でした。磯に居るハコフグの多くもまたこの白カビに犯されてしまったのです。
この事をHP上で紹介したところ、読者のJUNさんから、
「これは白点病ではないでしょうか」
と教えて頂きました。しかも、これはカビではなく白点虫と呼ばれる寄生虫であるとの事でした。
「へぇ〜、そんな病気があるのかぁ」
と驚きました。しかし、近頃少しずつ増えて来た我が家の寄生虫ライブラリーを調べてみると、僕が読んだ筈の本にちゃんと書いてありました。目を通してはいても、関心が無かったらやはり全く頭に残らないのですね。今回の白い点々がこの白点病であるかどうかは、発症中の魚を採取して来て顕微鏡ででも調べねば分からないのでしょうが、まずはこの病の正体を調べてみました。

淡水性白点虫の生活サイクル
(「魚類寄生虫学」小川和夫 より引用)
一般に白点虫と呼ばれる生物は淡水性と海水性の2種があるそうなのですが、どちらも原生生物の繊毛虫という単細胞生物の仲間に属しています。昔、理科の時間に習ったゾウリムシがまさしくこの繊毛虫です。これらは、体の回りがその名の通り細い繊毛にビッシリと覆われているのが特徴です。
この白点虫は、魚のエラ、体表、ヒレなどに寄生するのだそうです。はじめに挙げたオキタナゴやハコフグの写真を見ると、この寄生虫は魚体の表面にくっついているだけの様に見えますが、実際は組織の中にグッサリ侵入してしまっているのだとか。そして、繊毛運動の刺激によって上皮組織が崩壊することもあり、その病変が進行すると衰弱して死んでしまうのです。オキタナゴの鱗が剥がれかけた様に見えたのはまさしくこの状態だったんですね。
さて、上に挙げたのは淡水性の白点虫の一生です。成虫は、A の様なまん丸の形で魚の体表に寄生しています。ところが、これが成長すると折角見つけた魚の体を離れ(B)、生活の場を水底に移します。そして、外側が薄い殻で覆われれて引きこもりの状態に入ると共に細胞分裂を繰り返すのです(C)。やがて、その分裂した一つ一つが仔虫となって殻を飛び出し、新たな寄生先の魚を探す旅に出るのです。
この分裂回数は水温の影響を受け、低水温では100匹程度の仔虫になるのですが、高水温では3000匹にも達するのです。あの白いカビカビがこんな風に爆発的に殖えて行くなんて何だか恐ろしいですよね。淡水性白点虫の場合は、この増殖に適した水温は15〜18℃で、水温がやや低い春と秋に発生する事が多いと言われています。
今回問題の海水性の白点虫は、上の淡水性とは類縁関係がかなり遠いのですが、主な生活サイクルは上と同じです。ただ、産出される仔虫は約200と少な目になります。
そして、この白点虫の大きな特徴は寄生先の魚種をあまり選ばない事です。魚に付く寄生虫の中には決まった魚にしか付かない物が多くあります。例えば、ブリエラムシという寄生虫はもっぱらブリにだけ寄生し、ヒラマサから見つかった例はないのだそうです。
「ええっ?」
とちょっとビックリです。万物の霊長たる人間様の一端に居る僕なんか、海の中でブリとヒラマサの識別にはいつも本当に頭を悩ましてしまいます。ところが、小さな虫けらごときがそれをちゃんと見極めているのです。一方、白点虫は、繁殖に適した温度や塩分濃度の範囲であればどんな魚にも寄生する事ができるのです。また、水槽で飼育している魚の場合には、飼育の水質が変わったとき、水温の異なる水槽に移したとき、過密状態で多くの餌を与え過ぎたときなどに発生する傾向があるのだそうです。つまりは、魚に何らかのストレスが掛かった時が危険なタイミングなのでしょうね。
では、この白点虫をどの様に駆除すればいいのでしょう。養殖海水魚ではこれがかなり難しいのだそうで、流れの速い沖合いに施設を移したり、養殖場で水流機を使う事で被害を軽減できる場合があるという程度なのだそうです。
じゃあ、富戸の魚達はどうなるのでしょう。オキタナゴは明らかに群れの数が減って来ています。自ら沖合いに移動したのでしょうか、それとも斃死してしまったのでしょうか。見守る事しか出来ない秋の海が続きます。
参照:
2007/11/15 記
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