| 第177回 夏炉冬扇 - その2 | |
第176回 「夏炉冬扇-その1」 より続く |
|
さて、寒い冬もウェット・スーツでしか潜れない僕のような貧乏ダイバーでも利用できる水中カイロを自作しようとの試みがいよいよスタートしました。これは、酢酸ナトリウムという物質の過冷却という現象を利用するものでした。そこで、前回ご紹介のサイトの方法に従ってまずは自分の手で進めてみました。 |
|
さて、その本体となる酢酸ナトリウムは白いサラサラの結晶で、500g入りが800円で売っています。そこで、注意点。本化合物には「酢酸ナトリウム」と「酢酸ナトリウム3水和物」の2種類が入手できます。お値段は同じ。でも、カイロの材料となるのは3水和物の方です。これは、酢酸ナトリウムと3倍の水との反応で出来るものです。 CH3COONa + 3H2O --> CH3COONa・3H2O (酢酸ナトリウム) (三水和物) 2つの物質の大きく異なる点は融点です。3水和物の融点は58℃です。これより熱ければ液体、冷たければ固体です。この、そこそこ熱い温度に融点があり、液体→固体への変化の際の凝固熱を利用するというのが今回のカイロ利用のキーポイントなのです。一方、純粋の酢酸ナトリウムの融点は300℃以上ですので、簡単に溶かすことはできません。 ですから、3水和物をそのまま用いればいいのですが、上の式にあるように、これは酢酸ナトリウムから簡単に作れるものですので、純粋な酢酸ナトリウムを原料としましょう。 |
|
準備するものは他に、PETボトル(3水和物を作る容器)、ビニール袋(カイロ本体)、石油缶の蓋(押してパチンッと言うやつ)、水(念のために蒸留水を利用)です。 これらの作業は、実は、皆が帰った後の職場でコソコソと進めたのでした。「プロジェクトX」なんかでは、上司に反対された新技術をどうしても進めたくて、誰も居なくなった部屋で夜遅くまで実験に取り組むなんていうシーンがよく出て来ます。でも、僕の場合はダイビング用自作カイロですから、いやはや、こんな社員を雇ってる会社に僕は同情してしまいます。 さて、職場の天秤を用いて酢酸ナトリウム82gと、蒸留水60gを計り取りました。酢酸ナトリウムの分子量は82ですから、分かり易く丁度1モル分という事です。3水和物を作るにはこの3倍、つまり3モルの水が必要です。それは、 18(H2Oの分子量) x 3 = 54 (g) に当たるのですが、それに少し足して60gとしました。 ペットボトルに酢酸ナトリウムと水を足して熱します。僕は、職場の80℃の加熱オーブンに入れましたが、家庭で試すにはお湯の中に漬ければいいでしょうね。 |
|
水と酢酸ナトリウム |
加熱溶解 |
この3水和物の生成には思ったより時間が掛かりました。時々ペットボトルを揺すってかき混ぜましょう。 やがて、3水和物が出来ると共にそれが融点(58℃)以上の温度に熱せられて無色透明な液体になります。さあ、ここから手早くですよ。 10cm四方程度のビニール袋に石油缶の蓋を入れ、そこへ溶けた酢酸ナトリウム3水和物を注ぎます。10cm四方程度の袋に100g程を注ぎました。熱々なので火傷に注意。そして、袋の中の泡を出来るだけ追い出してからヒートシールするのです。すみません、これも、職場のものを利用しました。部長、すみませんねぇ。 |
|
ヒートシール |
|
さあ、これで完成です。シール直後の袋はまだ熱々なので、しばらく机の上において冷まします。この間、ガランとした職場でコーヒーを飲みながら暫くのんびり。 「さあ、愈々だぞぉ」 と胸が高鳴ります。この時の鼻歌は勿論、中島みゆきの「地上の星」です。 ♪ 風の中の す〜ばる〜 ♪ |
|
過冷却状態 |
ポチッ 直後 |
ポチッ 3秒後 |
たちまち真っ白 |
そして30分ほど。袋は十分に室温にまで冷えました。この時点で、中の酢酸ナトリウムは融点(58℃)を遥かに下回っています。つまり、本来ならば固体になっていなくてはならないのです。これぞ過冷却です。 そこで、袋に入れた石油缶の蓋を押してポチッと鳴らしました。するとどうでしょう、この蓋の付近から白く固まり始めそれが見る見る広がって行くではないですか。数秒で袋の中は真っ白になり、それと共にカ〜ッと熱くなってきました。 「おお〜っ、来た来た来た〜!」 ひとりぼっちの夜の職場で僕は一人大声を出してしまいました。このとき、僕の頭の中で流れていたメロディーは勿論中島みゆきの声です。 ♪ 草原のペガ〜サス〜 街角のヴィーナス ♪ しかし、その後、すぐにナレーションの声が聞こえてきたのです。 「しかし、その後に迫り来る問題にその時彼はまだ気づいていな かった」 ええっ?! |
|
第191回 「夏炉冬扇-その3」 へ続く 2005/06/21 記 |
|
HP表紙へ > こぼれ話・最新へ > こぼれ話・ 151〜200へ > 本ページ