第151回  磯野家の謎 - 2 : 対数螺旋

第150回 「磯野家の謎 - 1」 より続く


 富戸の海で見る事ができる巻貝の多くは年輪模様の蓋を持っているのに対し、もっとも馴染みの深いサザエの蓋だけは螺旋模様をしていました。これは一体どういう訳なのでしょう。僕などが考えたって分かる筈のないこの謎に囚われ、長い放浪の旅を続ける事になってしまいました。

 しかし、西南の役に立ち上がった西郷どんの如く、負けると分かっている戦いに挑まねばならぬ時も薩摩生まれの僕にはあるのです。・・・・おっと、僕は大阪生まれでした。

 さて、「螺旋を巻いている」という言葉でまず思い浮かぶのは、蓋よりも貝殻自身の方です。「螺」という字を漢和辞典で引いてみると、

 「ほら貝に似た螺旋状の殻を持った貝」

と出ています。そう、「螺旋」とは正しく巻貝そのものであったのです。
例によって余談。「螺」の訓読みは「にな」「にし」なのだそうです。えっ? つまり、「ヒトデヤドリニナ」の「にな」、「イボニシ」の「にし」がこんな所に隠れていたのですね。なるほどなぁ。
更に、「螺」のつくりの部分は、石ころのように丸い物が三つ糸のように連なった螺旋を表しているんですって。
 そこで、サザエの蓋の螺旋を考える前にまず貝殻自身をよく見てみましょう。

 巻貝の貝殻について手持ちの本には、

 「多くの貝殻は螺旋状に極めて規則的に成長します。この規則性
  は対数螺旋または等角螺旋と呼ばれる図形で表現する事がで
  きます」

と書いてあります。

 「対数螺旋 んん〜? 等角螺旋 んん〜?」

 何だか不吉な予感。臭う、臭うぞ! 数学嫌いの僕には分かります。難しい数式の嫌なにおいがするぞっ。が、ここで怯んではおれません。大英帝国を相手にとても適うはずのないアヘン戦争を戦った林則徐のように、中国人を祖父に持つ僕は厳しい戦いに立ち向かわねばならぬ時があるのです。・・・・おっと、我が家は、代々ベタベタの大阪人でした。


 対数螺旋とは上図の様な螺旋を言うそうです。そして、これは上の式で表されます(う〜ん、数学アレルギーでかなり苦しくなって来たけど、我慢我慢)。「r」は上図の青線部を表します。円で言えば半径に当たります。また、「b」は、中心から延びる線と接線とがなす角度です。「a」は、角度Θがゼロの時の半径です。これらが対数を用いた関数で表されるから「対数螺旋」という訳です(式は指数関数ではありますが)。

 では、「等角螺旋」とも呼ばれるというのはどう言う訳でしょう。それはつまり、この螺旋においては、半径と接線のなす角度が常に一定である事によります。逆に言えば、ここの角度を一定にしてグルグル回せば、自然と等角螺旋が書ける事になります。

 ええいっ、何だかややこしい話ですね。そこで見方を変えて。

 螺旋と言えば、我々がまず思い浮かべるのは下のドリームキャストの様なグルグルではないでしょうか。


 しかし、これは対数螺旋ではありません。ドリームキャストの螺旋は、隣り合う線の間隔がずっと一定のままグルグル巻いています。ところが、対数螺旋では、外側に行くほど線の間隔がどんどん広がって行くのです。これが両者の大きな違いです。

 それでは、巻貝の螺旋は本当に対数螺旋なのでしょうか。そこで、富戸の地元のスーパー「さんぷらーざ」で買ってきたサザエ(壷焼きで美味しく頂きました)で調べてみました。



 螺旋の頂点側から見ると、なるほど、外側に行くほど幅が広がりながら巻いていますね。でも、この螺旋は、先に挙げたような式で本当に表わせるのでしょうか。そこで、皆さんのPCのポインターを上の写真に当てて下さい。ほら、半径 r をミリメートル(mm)表示とした時、このサザエの貝殻の巻きはこのような式で表されます。そして、赤い線がこの式が描く螺旋です。貝殻の巻きにほぼピッタリ合いますね。また、この場合、半径と接線の成す角「b」は0.532π、つまり96°でした。

 「なんだか凄いなぁ」

と僕は感じ入ってしまいました。96°なんていう半端な角度を計る分度器をサザエは一体どこで手に入れたのでしょう。また、人間様でも理解できない対数螺旋なんていう高等数学をサザエは一体いつ勉強したのでしょう。

 「凄いな、凄いな」

いやいや、感心してばかりもいられません。問題はサザエの蓋です。でも、その前に貝殻の話がもう少し続きます。
  


参照:
  ・「貝の博物誌」 佐々木猛智、東京大学出版会

  ・「虫の名、貝の名、魚の名」 青木淳一 他、東海大学出版会

  ・「かたち*あそび」(こちらのウェブ・サイトは対数螺旋を知る上
   で大変お世話になりました。しかも、大変おもしろい。こちらか
   らダウンロードできる「spiral」というソフトも楽しめます。今回の
   のサザエの螺旋の解析もこのソフトを利用させて頂きました。
   必見です)
第152回 「磯野家の謎 - 3」 へ続く

2004/10/18 記
   

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