第118回    イボヤギの受難

 本頁を海の食べ物コーナーと勘違いしている方がおられるかも知れないので(それは外れていない)、たまには富戸の海の様子を番外編でお伝えしましょう。 今月の表紙にイボヤギヤドリイトカケをご紹介したのですが、こいつの悪逆非道ぶりはもっと詳細に見て頂かなくてはならないので、本HPのお白州に引き出す事にしました。


 イボヤギはイソギンチャクなどと同じ刺胞動物に属しています。この非常に鮮やかな黄色のポリプは確かにイソギンチャクを思わせますね。でも、分類上はイソギンチャク目ではなく、イシサンゴ目に属するのだそうです。「サンゴ」と名の付く証拠には、根元にはオレンジ色の硬い石灰質の骨格があります。富戸の海ではさほど多い訳ではないのですが、岩の表面に群体を作ってポリプを揺らしている様はとても華やかです。


 さて、真冬のある日のこと。このイボヤギのポリプにそっくりのまっ黄色な小さな貝が取り付いているのを見つけました。これがイボヤギヤドリイトカケです。2cmあるかないかの小ささなのですが、これで大人なのです。彼らはイボヤギを文字通り「食い物」にして生きているこの世界のギャングなのです。上の写真にある様に、細長いホース状の吻をズコーンとイボヤギに突っ込んでいます。その吻というのが、イボヤギのポリプとそっくりで小さな点々模様まで真似をしています。この吻の先が一体どのようになっていて、どのようにイボヤギをいたぶっているのか分かりません。全く動きがないにもかかわらず、いや、それだからこそ逆にとても残酷な光景に見えるのです。


 その時、その傍に更に小さなイトカケが居るのに気付きました。1cmにも満たないほどです。でも、こいつ、食欲だけは一人前のようで、小さな貝殻から吻が突然ニュニューッと伸びて来たのです。ちょうど、ヘビ使いの笛の音にあわせて籠から出てきたコブラの様に、ゆっくり身をくねらせながら餌食とすべきイボヤギを探しているようなのです。まずは、お隣のイボヤギの石灰質部分を撫ぜて物色。

 「うへへ〜。利子くらいは払ってもらわないとねぇ」

なんて下品に笑う悪徳高利貸しの様にも見える不気味さです。


 ところが、

 「やっぱりこっちの方がよさそうだ」

とばかりに、大きな貝の上にモゾモゾと移動して来て、再び吻をニョロニョロニョロ〜ッと伸ばして来たのでした。


 そして、ズコ〜〜〜ンと同じイボヤギに吻を突っ込みました。

 「あ〜れ〜」

というイボヤギの悲鳴が聞こえるようです。僅かに見える黄色いポリプも儚く見えます。が、そんな事を意に介することもなく2匹はチュ〜チュ〜チュ〜。このお食事は数十分は続いたようでした。


 そしてその翌日。

 「あのイボヤギはどうなっただろう」

と再び見に来てみると、何と今度は産卵中のようでした。イボヤギの石灰質部分に似たオレンジから黄色の卵塊が不規則に繋がっています。貝からこの卵塊に細い粘液状の糸が伸びているのが御覧頂けるでしょうか。おそらくこれが「イトカケ」の名前の由来となるものだろうと思います。

 それにしても、食って食って、産んで、食って食って、産んで、と、欲望そのままの暮らしぶりなのです。


 イトカケのこうした専横ぶりの犠牲になったのだと思います。岩の表面にはこうして枯死してしまったイボヤギの哀れな姿が少しずつ広がって行くのでした。

 ああ、なむあみだぶつ。チ〜ン。

2004/02/04 記 
  

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