第80回 ゴッコ

 昔の魚類学者さんの70年以上も以前の本を読んでいたらダンゴウオに関する記述がありました。曰く、

 「ダンゴウオは団子の様に円い魚で、肉は蒟蒻の様に柔らかく食用
  としては殆ど顧みられない」
  (これが旧仮名遣いで書いてあります。読み辛い)

 えっ? 「顧みられない」という事は、ダンゴウオを食ったのか? 今やダイバーのアイドルとも言えるダンゴウオを食ったのか?

 でも、どんな味だったんでしょう?  
 さて、この日も仕事帰りに閉店間際の魚屋さんを覗いていたところ、

 「な、何じゃこりゃ?」

という魚がケースに収まっていました。「北海道産 ゴッコ」とあります。えっ? ゴッコ? ともう一度よく見ると・・


 こ、これはホテイウオではないですか! 海の中では勿論の事、陸上でも初めて見ました。ホテイウオは食えるのか! ホテイウオもダンゴウオ科です。これを食べればダンゴウオの味も想像できそうです。
 それにしてもでかい! ちょっとした子犬ほどもありそうです。後ほど測定した所では全長35cm・体重720gもありました。

 早速、魚屋のおじさんに尋ねてみました。

 「これ、どうやって食べるんですか?」
 「ああ、アンコウと同じだよ。鍋がいいね鍋」

なるほど、なるほど。っで、早速購入。¥1,980とちょっと高価な晩御飯となってしまいましたが、何の何の。これを逃したら今度いつ巡り逢えるか分かりません。

 「恋と魚に後ろ髪はなし」


 うちに帰って早速包みを開きます。

 「うゎ〜っ、可愛いなあ」

やはり、ダンゴウオに通じる愛嬌のある表情です。

 さて、このホテイウオを横においてあれこれと調べ物を始めました。
 ホテイウオはなんと水深2,000mの深海から表層近くまで分布しており、クラゲを食べているんですって。そして、2〜3月に産卵期を迎えるのだそうです。という事は、正しく今がその時期なんですね。

 ホテイウオは北海道ではゴッコと呼ばれ、鍋物、汁物にされるとあります。魚屋さんの札にあった「ゴッコ」とは北海道での呼び名だったのです。

 そして、ホテイウオで注目すべきはキャビアとのつながりです。
 北大西洋に住むホテイウオの仲間・ランプサッカーは1万5千〜10万粒の卵を産み、オスがその卵塊を守るのだそうです。その卵がキャビアとして取引されているのだとか。キャビアと言えばチョウザメの卵が有名ですが、こちらは2オンス(60g)で400円とはるかに安価です。

 「大西洋のホテイウオの卵が食えるのなら、北海道のものだって食
  えるだろう」

もし、このホテイウオがメスならば産卵期を控えてお腹には卵が一杯かも知れません。それならば、是非、クラッカーにでも載せて食べてみたいところです。


 ダンゴウオやホテイウオの大きな特徴は腹ビレが変形したと言われるこの吸盤です。ダンゴウオなんか岩や海藻にこの吸盤でキュッとくっ付いてうねりにも耐えているんですね。

 さて、そんな事をしている内にお腹がキューッと鳴ってきました。さあ、もう食べましょう、食べましょう。そこで、包丁を取り出してサッと捌いて・・・と思ったのですが、あれっ、刃が魚の体に入らないのです。グニュグニュの体が包丁を上手くかわしてしまいます。

 「そうかあ、魚屋のおじさんが、アンコウと同じと言ったのはこういう
  意味もあったのかなあ」

ホテイウオも吊し切りなんて事をしなくてはならないのでしょうか。でも、そんな凝った事をしていると飢え死にしそうです。そこで、キッチンバサミや剃刀で無理矢理体を開きました。


 うわっ、体の中は、なんだか内臓でたっぷりです。大きな卵巣もあったのでメスだった事が分かりました。でも、その中に食べられそうな卵は見つかりませんでした。まだもう少し早かったのでしょうか。さらには、でっぷり太った肝臓もありました。アンコウの肝が珍味として食えるのですから、ホテイウオも「ホテキモ」として食べられるだろうと分けておきました。

 さて、こうして内臓を取り出してみると、所謂「身」と言える部分が殆ど残っていない事に気付きました。

 「えっ、一体何処を食べるの?」

が、その時、こいつらは身だけでなく、皮も含めて食べるべきものらしいという事が分かってきました。さらに、彼らの骨も非常に柔らかい事が分かりました。包丁の刃を押し付けると、僅かな抵抗があってから意外とサクッと切れてしまいました。

 「こ、こいつら硬骨魚類だよな」


 さあ、準備が整いました。では、アンコウにならって「ホテイ鍋」と致しましょう。関西生まれの僕は、この季節の鍋物の青菜には当然「水菜」であります。

 それでは頂きましょう。ポン酢で・・モグモグ。
 うんっ、なるほど。彼らは味を楽しむと言うより食感を楽しむ魚なんですね。グニュグニュ、モチモチした歯応えが中々快感です。また、骨の部分もバリバリと食べられてしまいます。

 更に、注目の肝です・・・・・。 おっ、これは美味い! とっても濃厚で、アンキモと変わらぬ豊かな味わいです。

 こうして、「おっ」、「おやっ」、「うんっ」、などと言いつつ春を間近に控えた我が家の夜は更けていくのでした。

                       2003/03/12 記
  

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