2008/07/15-5 「地方巡業 - その5」 より続く
ごめんなさいね。少し間が開いてしまいましたが、屋久島のセダカスズメの話がまだもう少し続きます。
「セダカスズメダイの産卵は早朝がピークらしい」
と言う事を確かめ、これまで「仮定」としていたことが「事実」であるらしい事が分かって来ました。そうなると、もう一つの「仮定」も確かめておきたくなります。それは、
「夕暮れ時にハッチアウトする」
と言うことです。勿論、セダカスズメのハッチアウトなんて見た事はないのですが、こちらは、
「おそらく間違いないであろう」
と言う思いがありました。多くの魚の卵が日が暮れてから孵化する事はよく知られていますし、特に同じスズメダイ科であるクマノミの日没後のハッチアウトはナイト・ダイビングが出来るエリアではよく観られています。それらからの類推で、
「セダカスズメも日没時だろう」
と思っていたのでした。でも、潜水時間に縛りのない海に折角来たのだから一応確かめておきましょうと言う事で、早朝産卵を観た7月15日の午後6時50分にサンセット&ナイトダイビングにエントリーしたのでした。この日の日没は7時23分でしたから、日の入り30分前です。
まずは直ぐにセダカの居る岩穴へ直行しました。すると、オスはいつも通り卵塊の付近を行ったり来たりしていました。

この日ハッチアウトを迎えるのは、上の写真のパッチであろうと思われました。卵の目玉がライトを反射してキラキラ輝いています。そして、ライトの中に浮かぶ卵塊とそこを往来するセダカに目を凝らしていたところ、ライトの光の柱の中に小さな浮遊物がフワーッと湧き上がって来るのが見えました。

2008/07/15 午後7時5分 ハッチアウト開始
始めはセダカがヒレを動かすときに舞い上がるゴミかと思ったのですが、よく見るとこれが孵化し始めた仔魚の群れである事が分りました。
「うゎぁ〜っ、予想していたよりずっと小さいぞぉ〜」
孵化が一旦始まると、あちらでもこちらでもゴミが一気に湧き上がって来ます。時刻は午後7時5分でした。日没(7時23分)後のハッチアウトかと思っていたので予想より少し早かったのですが、水中ライトを照らしていた事による刺激が孵化を促進したという面があったのかも知れません。
こうして、
「セダカスズメダイの孵化は夕刻」
と言う「仮定」もこうして「事実」として確かめる事が出来ました。
以上は、ま、予想の範囲内の出来事でした。ところが、予想しない事もありました。そのひとつは、
「セダカスズメダイも夜は眠る」
と言う事でした。今回の屋久島合宿ではサンセット&ナイトダイビングを2回行なったのですが、2日共、セダカは午後7時頃にはせっせと卵の世話を行なっていたのですが午後8時半頃には姿を消していました。産卵床のある岩穴の隅にある小さなポケットの様な場所をねぐらとしている様でした。

セダカスズメダイのねぐら
夜間に活動する生き物も居るだろうに、こんな無用心で卵を食われてしまう事はないのだろうかと「セダカ応援隊」としては不安になってしまいます。
そう、もう一つ驚かされた事と言うのがこの「卵食」なのでした。まずは下の写真をご覧下さい。

2008/07/15 午前52分 産卵終了直後
これは、この日の早朝に産み付けられたばかりの卵パッチです。ところが、この日の夕方に見た時にはそれが下の様になっていたのです。

朝には綺麗な空豆型に産み付けられていた卵パッチが、半日の間に酷い虫食い状になっていたのでした。これは、産みたてホヤホヤの卵が食べられてしまった結果に違いありません。
「じゃあ、一体誰が?」
と言う事が気になるところです。セダカ自身が食べたと言う事もあり得るのでしょうが、この虫食い状の形を見ると、恐らく他の魚に食われたのだろうと思えます。セダカ自身ならばこんなチマチマしたつまみ食いではなく、まとめてガサッと食べ尽くしてしまうでしょう。
それでは、「他の魚」と言うと・・。そう言えば、この岩穴にはオヤビッチャがしばしば姿を見せ、その度にセダカのオスから激しい攻撃を受けていました。また、岩肌にはヘビギンポがウロチョロしているのもよく見かけました。この辺りがかなり灰色の容疑者として浮かんできます。
この様な卵食はどうやら屋久島ではよくあるようでした。

上は、今回観察の産卵床のすぐ傍にあった別のセダカの産卵床です。左の写真には、この日の朝に産み付けられた卵がビッシリとあります。ところが、1日後にはそれが矢印部のごく小さなパッチになってしまったのでした。ここでも大規模な卵食があったものと思われます。屋久島のセダカは、まず無事に産まれて来るだけでも大変な試練を受けている事がよく分ります。
実は、この卵食は富戸ではほとんど見られない現象なのです。産み付けられた卵はほぼそのまま孵化にまで至ります。卵食と思われるパッチの縮小が見られる事はありますが、それはかなり稀な例です。
「オスが卵を守る必要はあるの?」
とすら思うほどです。
「富戸のセダカの卵は食われる事が少ない」
と言う事は、以前次の様な方法で確かめました。
富戸のセダカスズメダイ: #2 産卵床 (2005/08/07)
( )内の数字は産卵後の日数
2005年の夏、繁殖期の間に5箇所の産卵床に産みつけられた卵パッチの面積を全て数え上げた事がありました。計測した卵塊は合計159パッチに上りました。
もし、卵食がかなりの頻度であるとすれば、産卵後の日数を経るに従って生き残る事が出来るパッチの数が減って行く筈です。つまり、上の写真で言えば、(0)や(1)のパッチは多いけど(4)のパッチは少なくなって行くと思われます。
そこで、産卵後の日数とパッチ数の関係を調べたのが下のグラフです。

これを見ると分る様に、産卵後の日数とパッチ数には特別な関係は見られませんでした。つまり、産卵床をいつ覗いても(0)のパッチだって(4)のパッチだっていつも同じ頻度で見られたと言う事です。だから、パッチがゴッソリ無くなってしまう様な卵食は殆どなかったと思われます。
しかし、パッチを丸ごと食われなくても、今回の屋久島で見られた様にパッチの一部が虫食い状に食われる事があるかも知れません。そこで、産卵後の日数と、それぞれのパッチの平均面積の関係を調べたのが下のグラフです。

これを見ると分る様に、産卵後の日数を経てもパッチの平均面積は殆ど変わっていません。つまり、富戸のセダカの卵はつまみ食いされる可能性もかなり低いと言う事なのです。
この様に、卵を狙う魚の多い少ない事はそれを守るセダカの労働量にも影響するでしょうし、ひいては何らかの生態行動の変化にまで繋がるかも知れません。
「あ〜、富戸と屋久島のセダカをもっと徹底的に比較できる観察をしたいなぁ」
僕の野望は果てしなく広がるのでした。でも、それは世界征服にも、地球環境の保護にも、戦争の廃絶にも、人々の幸福にも一切繋がらないケチな野望なのでした。 (つづく)
2008/07/15-7 「地方巡業-その7」 へ続く
2008/08/14 記
HP表紙へ > 生き物の記録・最新へ > 生き物の記録・2008年へ > 本ページ