富戸はるみ (2008/07/06 - 2)

2008/07/06-1 「富戸裕二」 より続く

 富戸にも アオサが カミング〜ッ
 じっくり 産卵 ウォッチング〜ッ
 謎は 深まり シンキング〜ッ

さて、アオサハギの産卵を突き止めるべく、

 ・ ペアを見つけたら徹底的に追う
 ・ 昨年産卵が見られたサグラダカイメンを継続的に巡回

の両面作戦で臨んだ「2008アオサハギ・プロジェクト」でしたが、6月末時点でいずれも芳しい成果はありませんでした。

 ところが7月5日(土)になって、2本目の竿、つまりサグラダカイメンに当りが来たのです。雌雄複数のアオサハギが、サグラダカイメン・エリアに集まり、少なくとも一日中そこを離れようとしなかったのです。そこで、

「カイメンへの産卵を狙う雌雄が、パートナーやタイミングを推し量る為に、一時的にせよ定住を始めたのではないだろうか」

と考えたのでした。

 そしてその翌日、7月6日(日)。この日は全てをアオサハギとサグラダカイメンにつぎ込む覚悟でした。ただし、現場は水深20mと半端に深いので、十分水面休息を取って2ダイブ、合計1時間の勝負です。

 まず、朝一番にタラバイエロー隊員と共にエントリーして脇目もふらずに直行。そして、エリア内の幾つかのサグラダカイメンを見渡しました。

「あれっ? アオサハギの姿が無いぞ。もしや皆どこかへ行ってしまったの?」

と嫌な予感が脳裡をよぎります。が、すぐに一安心。まずメスが2mほど離れたトサカの陰で見つかりました。そして、昨日と同じと思われるオスもそれを見つけて駆け寄ると、朝っぱらからまたもやネチネチ求愛です。


2008/07/06  午前 09:32

 このオスは一体1日に何回こんな事を繰り返しているんでしょうね、ご苦労な事です。そして、飽きもせずにと言えば、もう1匹のオスも、


2008/07/06  午前 09:35

 負けると分かっている喧嘩にどうして時間を費やしているのでしょう、こちらもご苦労さま。

 が、とにもかくにも前日のメンバーがやはりこの日もサグラダカイメン・エリアの狭い範囲内に居ました。メスはオスにネチネチされても決して遠くに逃げ去ってしまう事はなく、下位のオスは上位のオスに幾ら追いやられてもまた直ぐに戻って来るのでした。アオサハギの幼魚が同じトサカやヤギに暫く定住しているのは見る事がありますが、繁殖期の個体がこんなにも一定の場所を動かないと言うのは珍しいのではないでしょうか。これは、やはり産卵を考えての事と思われました。

 そして、この日の午前中に見られたもう一つの変化がこれです。


2008/07/06  午前 09:37

 昨日から見ていたオス2匹、メス1匹以外にもう1匹のメスが海藻の裏に隠れていたのです。そうそう、こいつを探していたのです。昨日の午前中にタラバイエロー隊員がここサグラダ・エリアのアオサハギの登場に気付いた時にはオス・メス2組だったのだそうですが、僕が午後に来た時にはメスは1匹しか居なかったのでした。この朝改めて見つかった2匹目のメスは明らかに体が小さく、もう1匹のメスより下位に当たり海藻などに隠れがちなので前日にはみつけられなかったのでしょう。

  ところで今、「下位のメス」と書きましたが、体は小さいとはいえお腹はプックリ膨れているので性的にはもう十分成熟していると思われました。そして、このサグラダ・エリアは狭いので、泳いでいると上位(大型)のメスと顔を合わすことも勿論あります。オス同士ならばそんな時は先の写真でご紹介した様に派手な立ち回りになるのですが、メス同士の場合にはそんなあからさまな争いにはなりません。上位(大型)のメスが下位のメス(小型)に或る程度距離を取りながらジワーッと寄って、

  「分ってるわよね」

と静かに威圧する、そんな感じでした。

 さあ、とにかく、これでオス2匹とメス2匹の役者が揃いました。ところが、この時間帯は場の雰囲気が何だかのんびりしていて、「産卵!」と言うほどの熱さが感じられませんでした。と言う事で、瞬く間に30分が過ぎてタイム・アップ。仕方なくその場を離れて浮上を始めました。

 でも、この先何がどう変化するかも分からないので、2本目も勿論サグラダ・エリアです。ただし、水深の都合上、次も30分しか観察に費やせないので十分に水面休息を取った上で何時にエントリーするかが思案のし所なのです。そこで、

「のんびりしたあのムードが産卵の熱さにまで盛り上がるには少し時間が必要だろう」

と考え、水面休息凡そ3時間の後、イエロー隊員と共に午後1時20分にエントリーして、再びサグラダ・エリアへ向かいました。

 さて、現場に着いてサグラダカイメンの一つを見てビックリしました。熱い! 何だかそこだけ水温が 2〜3 ℃高く感じられたのです。と言うのも、今まさしく、カイメンの上で1匹のメス(大型上位メス)を挟んで2匹のオス(上位と下位)が睨み合っている所なのでした。その迫力が尋常ではなかったのです。


サグラダ脇でメスを挟んで睨みあうオス
2008/07/06  午後 01:41

 これまでならば、2匹のオスがお腹の皮を延ばしメタリック・ブルーに輝いて互いの体側を誇示し合うようなパターンが殆どでした。それを2〜3度繰り返すと、下位のオスが大抵退きます。ところが、この時ばかりは両者共に譲らないのです。今にも噛み付かんばかりに、凄い勢いでバンッバンッと体をぶつけ合ったのです。

  「ひぇ〜っ、アオサハギもこんなに素早い動きが出来るのかぁ〜」

いつもは漂うように泳いでいるアオサハギの目にも止まらぬ俊敏な動作に驚くばかりです。一方、メスの方は、少し戸惑った様にしてはいるのですが、決してカイメンから離れようとはしません。僕には、

  「産みたがっているメス x 産ませたがっているオス」

の切羽詰った場面に見えました。

「う〜ん、僕には時間があんまり無いんだよぉ。何とかこの場を収めなくては」

と思うのですが、悲しいかな僕には彼らの言葉が分かりません。

「う〜っ、こんな事なら、学生時代の第二外国語に『アオサハギ語』を取っておくんだった」

しかし、学校を出てから数十年。中年になってから薄暗い海の底で後悔しても時既に遅し。

 結局、この時は収拾が付かずそれぞれの個体はばらけてしまいました。しかし、熱い「産卵オーラ」はまだその場を支配している様に感じられました。先ほどの3匹に小型の下位メスも加わって、4匹が行ったり来たり付いたり離れたりと全然落ち着きません。そこで、僕は思い付きました。

  「$♪#A 3%=&"!*」
  (みんな、まあ待て。ここは民主的に話し合いにしよう)

数年前に勉強した事のある「カワハギ語」で一同に話し掛けてみたのです。アオサハギもカワハギ科ですから、もしや通じるかもと期待してのことでしたが、彼らはその時僕に一瞥を呉れただけで全くの無視でした。やはり彼らには特有の言語体系があるようです。

  「ああ、残り時間が10分を切ったよぉ〜」

産卵の匂いがプンプンするのに、思い通りに事が運ばずにイライラし始めた頃です。下位のメス(小型)がサグラダカイメンの上にスッと入って来ました。傍にはオス(上位なのか下位なのかは不明)が付き添っています。何だかいいムードです。すると、間もなくメスがカイメンのてっぺん付近をチョンチョンと口で突っつき始めたのです。


2008/07/06  午後 01:54

「おおっ、これは産卵前にカイメンの開口部を広げる動作ではないか?」

 論文でも、昨年のイエロー隊員の観察でも記録されているメスの行動です。一方、オスは口許をそっとメスの体に寄せます。これも、カワハギやキタマクラの産卵前にオスがよく見せる動きです。

  「よしっ、これは産む!」

産卵は間近に迫っているに違いありません。焦がれる様な思いでその様子を見つめて丁度3分が経過した時、メスがお腹をこちらに向けて直立するほどに反り返り、下腹部をカイメンの上部に押し当てたのでした。すかさずオスも腹部を寄せます。


!!!
2008/07/06  午後 01:57:00

  「やった〜っ!

僕は水中で絶叫です。後ほど聞いたところでは、近海を航行していた自衛隊の艦船のソナーにもその声ははっきり感知されていたとの事でした。長年どうしても見る事の出来なかったアオサハギの産卵が今、目の前で繰り広げられているのです。時に、2008年7月6日、午後1時57分、富戸・ヨコバマ、水深20m、水温18℃です。僕とイエロー隊員は顔を見合わせてから親指を突き出して、

  「グ〜ッ」

 さて、放卵・放精開始から約3〜4秒後にオスがまずゆっくり離れました。


オスの放精終了
2008/07/06  午後 01:57:04

 恐らく精子は十分にカイメンの中に注入したので受精にはこれで十分という判断なのでしょう。一方、メスはまだ放卵の姿勢を維持です。そうして、放卵・放精開始から約14秒後。


オスのドカンッ、メスの産卵終了
2008/07/06  午後 01:57:14

 一旦離れたオスが産卵継続中のメスの傍に戻って来て、ドカンッとヒレを広げて真っ青に輝いたのです。そう、丁度メスに求愛する時と同じような状態です。すると、それに威圧されるかの様にメスが漸く産卵を止めたのでした。

 産卵後のオスの「ドカンッ」が一体何を意味するのかは分かりません。ただし、昨年のイエロー隊員の観察でも、放精直後に

  >> オスがヒレを広げてそのメスの眼前をブエ〜ッと派手に何度も
  >> 横切った

との記録があります。どうやらアオサハギに共通する生態のようです。

 キタマクラでも放卵・放精後のオスが興奮色になってメスを威圧して産卵場所から追っ払うと言う行動が見られる事があります。しかし、アオサハギの場合はそこまで強圧的ではありません。だから、放卵・放精を終えたペアは共にその場から立ち去り難いかの様にカイメンの上を1〜2分間ウロウロしていました。

 そして、ペアが離れた隙を見て、実際の産卵があったカイメンを急いで覗いてみました。下の写真の矢印部がメスが齧って(?)産卵した開口部です。

ここからライトを照らしてカイメンの底部を見ようとしたのですが、角度が悪くて底のごく一部しか見通せません。その範囲では卵を見つける事は出来ませんでしたが、行動から見て産卵があったのは間違いありません。

 そうしている内に、その場での許容時間が愈々なくなって来ました。改めて考えれば、時間ギリギリ、滑り込みの産卵だったのです。

 何だか体にフワ〜ッとした達成感と言うか脱力感を残して浮上を始めました。ゆっくりと水深を上げながらも、僕はニヤニヤが止まりません。

 本当にここまでの道のりは長かった。「オキタナゴの出産」と並んで、

  「長い時間を掛けて追いかけているのにちっとも見られない」

のが「アオサハギの産卵」であったからです。それが、昨年のオキタナゴに続いて、遂にアオサハギも突き止める事が出来たのです。

  「いやぁ〜、嬉しいなぁ〜」

この嬉しさは、単に「長らく見たかった物が見られたから」と言う喜びではありません。

 それらがうまく繋がって呉れたと言う充足感なのでした。ただの偶然の目撃ではなく、少しは「アオサハギ語」が理解出来て来たのかも知れないという達成感なのでした。でも、一つ分かったらその何倍も分からない事が出来てくるので、もっともっとよく見てもっともっと知りたい。

 しかし、今はとにかくニヤニヤで許されるでしょう。フィンキックのリズムに合わせて、7月の富戸に僕は口ずさむのでした。

  アオサの 秘密を キャッチング〜ッ
  やったぜ うれしや ジャンピング〜ッ
  まだまだ 前進 ゴーイング〜ッ

 (あと少しまとめが続いて一区切り)

2008/07/06-3 「富戸で水入り」 へ続く

2008/07/11  記

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