富戸の純粋培養 (2008/06/01)

2008/05/24 「富戸の後遺症」 より続く

 ま、別にいいんですけどね。いや、本当はよくないんだけど・・。週末ごとにこうも海が荒れてしまうのは一体どう言う訳なのでしょう。昨年の記録を見ると、5月なんて毎週好調に潜っていましたよ。この週末も、5月31日(土)は風雨共に強く、荒れに荒れて富戸はクローズ。翌 6月1日(日)は、お天気はカラリと好転したものの、微妙なうねりが残ったままでした。


 月日: 2008年6月1日(日)
 天候: 晴れ(気持ちいい〜っ)
 気温: 17〜21℃(丁度過ごし易い)
 水温: 20℃(また1℃上昇!)
 透明度: 7m(うねりのせいで白濁り)
 海況: うねりあり
 潮回り: 満潮 = 08:45(26cm)  干潮 = 15:43(138cm)
       月齢:27  中潮


 さて、春の富戸の風物詩、ウミタナゴ・オキタナゴのお話です。

 例年は4月中旬には妊婦だけの大きな群れを作る筈のオキタナゴが、ゴールデンウィークの頃になっても今年は全くその姿を見る事が出来ません。一方で、富戸ではマイノリティーであるウミタナゴの方は、例年通り少数ではありますが妊婦が磯に集まり始めました。

 オキタナゴ成魚の激減振りは予期しなかった事ではありますが、これは、

「オキタナゴの影響を受ける事なく、ウミタナゴの出産生態だけに焦点を絞れる絶好の機会」

と見る事が出来ます。つまり、ウミタナゴの純粋培養条件が整ったと言う事なのです。そこで、4月中旬から、まずはウミタナゴだけに注目するようになったのでした。

 前回の写真でご覧頂いた様に、ウミタナゴとオキタナゴは外見上はよく似ているのですが、その暮らしぶりには微妙な差がある様に思えます。オキタナゴは水底から1〜2mの中層を泳いでいる事が多く比較的活発です。一方、ウミタナゴはどちらかと言うと物陰が好きな様で、テトラポッドの陰や、海藻がモシャモシャ生えた様な場所でユッタリとしている事が多いのではないでしょうか。

 出産期を迎えた5月頃の両種の動きが正にそれなのです。オキタナゴの妊婦の群れは中層辺りを行ったり来たりしてフゥフゥ言っています。そして出産も、幼魚が群れている中層辺りに飛び込んで行うのです。しかし、臨月のウミタナゴは活動の範囲は比較的狭く、動きも緩慢に見えます。しかも、海藻の中に見えなくなったり、テトラポッドの下に入ったりするものだから見にくいったらありません。

「オキタナゴとは違って、出産も人目に付かない所で行うのだとしたら、我々には観察のチャンスが無いという事になるぞ」

 ウミタナゴの出産観察に今まで熱心になれなかったのは、オキタナゴより数が少ないと共にそんな事が危惧されたからでした。しかし、今年はオキの妊婦が見当たらない以上、ウミに集中するしかありません。

 さて、ウミタナゴは4月中旬頃、ヨコバマの水深7〜8m付近に現われました。その数はやはり例年並み位で、恐らくせいぜい10〜20匹でしょう。しかも、5〜6匹で1グループ程度でしょうか。


ウミタナゴ妊婦の小グループ

「こんなに数が少なくて、しかも物陰に隠れて出産されたのではどうしようもないなぁ」

と観察の行く末に暗雲が垂れ込めます。そうして、少し離れた場所から彼女達の動きを追うのですが、切羽詰った感じは感じられず、いつも何かしらモグモグと食っているばかりに思えました。でも、いつ何処で出産するか分らないから気を緩める訳に行きません。特に、もし幼魚が現われたら緊急配備が必要です。

 こうして僕はタラバイエロー隊員と共に「ウミタナゴ妊婦の動き」「幼魚の出現」に絞って、怪しそうなエリアの巡回を繰り返していました。しかし、ゴールデン・ウィーク(GW)前半にはそのどちらにも異常が見られませんでした。そうしてGWは後半へ。

 5月3日、いつも通り浅場を巡回していた時です。水深6m程でユラユラ揺れるアントクメの直ぐ上に目が釘付けになりました。

  「で、出たぁ〜、ウミタナゴの幼魚だぁ〜!」


ウミタナゴ幼魚の群れ

 遂に、現われたのです。その数、付近に20匹程度。それぞれの全長は3〜4cm程度でしょうか。オキタナゴの時と同様、やはり幼魚同士で群れを作っていました。ただ、オキタナゴの幼魚は中層と呼べるほど、水底から離れた場所に群れを作るのに対し、このウミタナゴの幼魚は海藻からそれほど離れる事はありませんでした。「絶対に間違いない」とまでは言えないのですが、前の週にもその辺は巡回していてこんなチビは見かけなかったと思うので、彼らはその1週間以内に産まれた子供達であるに違いありません。

 また、特筆すべきは、

  「これはオキタナゴではなく、間違いなくウミタナゴの幼魚に違いない」

と言う事です。これらタナゴ類の産まれたての幼魚を見る度に

  「これはウミタナゴなのかな? オキタナゴなのかな?」

と頭を悩ませて来ました。ところが、今年の富戸に限っては、GWの時点でオキタナゴの妊婦が全く見当たらないのですから、突如現われたこれらの幼魚はウミタナゴの子であるに違いありません。


ウミタナゴの幼魚

  「う〜ん、オキタナゴ幼魚とどこが違うのかなぁ〜?」

と目を凝らします。が、その議論はまた後で改めて。

 さて、ウミタナゴに違いない幼魚の群れを見ていて改めて思い出されるのがオキタナゴの出産です。妊婦達は他のメスが産んだのであろう幼魚の群れの中に自分の子を産み放っていました。

  「物陰好きで、ひょっとしたら人目を忍んでコッソリ出産しているのでは?」

と思っていたウミタナゴもやはり幼魚群の中に出産するのかも知れません。そこで、オキタナゴの時と同様に、

  「幼魚の群れの傍で待って見る」

と言う作戦に切り替えることにしました。そして迎えた5月5日。出産ウォッチングに相応しい子供の日の朝の事です。朝一番からウミタナゴ幼魚の群れに向い、ジッと息を潜めていました。幼魚はアントクメのテッペン辺りに20〜30匹が集まっていました。付近にはその他にもクロホシイシモチ、マアジ、ホンベラ、メバルなどの幼魚・若魚が同じ様な群がりを作っていました。すると、そこへウミタナゴの妊婦が登場です。

  「おおっ! 遂に出産に遣って来たのか?」

ドキドキするのですが、ここは冷静に冷静に。また、オキタナゴの出産の時の教訓からこの時はカメラは構えずストロボも光らせず、小さなコンパクト・デジカメのビデオ機能を用いた撮影だけに限定しました。では、その映像をご覧下さい。

ウミタナゴの出産 (Windows Media)

  「いゃったぁ〜、産まれたぁ〜!」

 妊婦のお腹から幼魚の尾ビレが出て来てピコピコ動き出したと思ったらスルリと出て来ました。上の動画ではその直後にクロホシイシモチが前を横切ったのがちょっと目障りでした。でもとにかく、昨年のオキタナゴに続いてウミタナゴの出産もこの目で見届ける事が出来ました。

 それにしても驚いたのは、幼魚の群れは昨年のオキタナゴの場合よりはるかに小さいのに、妊婦はやはりそれを見つけて出産に遣って来たと言う事です。しかし、オキタナゴの場合とは異なる点もありました。そこで、昨年のオキタナゴの出産をもう一度ご覧下さい。

オキタナゴの出産 (Windows Media)

 この両者の出産の様子を比べると、

 この日見る事が出来たのは結局この個体の産み出した1匹だけだったので、上の「ウミタナゴの特徴」と思えたものが本当にそうなのかどうかはもっと多くの個体を、しかも時期をずらしながら(出産期の初期・終盤など)見る必要があるでしょう。

  「よ〜し、今年はこの線で粘るかぁ〜」

と勇んだのですが、あ〜、5月の富戸の海は週末ごとに荒れに荒れたのでした。(つづく)

2008/06/14 「富戸で尻切れ」 へ続く

2008/06/04  記

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