水温が19℃にまで一気に上昇し、透明度もよくなって来たと思ったら、5月10〜11日は北東の風で海が荒れ、翌週はお天気はよかったのに僕の方に用事が出来てお休み。この日は珍しく2週間ぶりのダイビングとなりました。何だか久しぶりの気がして、
「器材のセッティングの仕方を忘れていないかな?」
などとちょっと不安になったりして。
月日; 2008年05月24日(土)
天候; 晴れ後曇り
気温; 21〜23℃
水温; 19℃
透明度; 7〜12m (やや濁った層があるが、基本的に綺麗な青)
海況; ベタベタ
潮回り; 満潮 = 05:48 (140 cm)、 干潮 = 13:10 (16 cm)
中潮、 月齢 = 19
5月15日から富戸は夏時間に入り、最終Exが 4:30 になりました。しかし、
「さあ、時刻をそれほど気にせずにのびのびと潜れるぞ」
と力こぶの人は殆ど居ないようで、3時を過ぎると殆どのダイバーの姿が消えてしまいました。オハグロベラの求愛も始まっており、この時刻ならでは見物もあるのに勿体ないなぁと思いながら、内心は、
「ウッシッシ」
と午後の海を心行くまで楽しむのでした。
さて、昨年の今頃のログを見ると、ダイビングの殆どの時間を「オキタナゴの出産」の観察に費やしています。それまでは、
「出産の瞬間を何とか見てみたい」
と思って幾ら粘っても見る事が出来なかったのに、タラバイエロー隊員の、
「オキタナゴの出産は親を追うのではなく、幼魚の群れで待つべし」
と言う視点の一大転換で一挙に視野が広がったのでした。つまり、陣痛の始まった母タナゴは、既に産み出された他の妊婦の子供の中に自分の子供を紛れ込ませる事によって生き残りの確率を上げようとしていたのです。そこで、「待って見る」と言う作戦に切り替えた途端、昨年は何十例もの出産に立ち会うことが出来ました。お陰で、してやったりの熱いシーズンになったのでした。
ところが、昨年わざと取り上げなかった問題があります。それは、
「この時期、磯で小魚を出産するのはオキタナゴだけではない」
と言う事です。実は出産する魚としてもう一種、ウミタナゴが居るのです。このウミタナゴとオキタナゴは共にウミタナゴ科の魚なのですが、ウミタナゴ属とオキタナゴ属と属のレベルで異なる程度の差異があります。例えて言うならば、同じスズメダイ科でありながら、クロソラスズメダイ属の「セダカスズメダイ」とソラスズメダイ属の「ソラスズメダイ」程も離れていると言う事です。う〜ん、あまりいい例えでもないかな。
でも、共に「タナゴ」の名を有するだけあって、両種はかなり似た外見をしており、富戸の地元でも両者を混同しているガイドさんが結構おられます(なんて偉そうな事言ってますが、僕もよく間違える事があります)。

ウミタナゴの妊婦

オキタナゴの妊婦
一見して両者には次の様な差異があります。
このウミタナゴも春から初夏に掛けて浅場に集まって来て小魚を出産するのです。ただ、富戸においては、オキタナゴとは成魚の個体数に大きな開きがあります。今頃の時期、出産の為に集まってくるオキタナゴのメスは一昨年、昨年と数百匹スケールにもなりましたが、ウミタナゴはいつもそれより遥かに少なく10〜20匹程度かなぁと言うところです。つまり、富戸では
ウミタナゴ:オキタナゴ=1:10 〜 1:20
と言う非常に偏った割合であり、タナゴと言えばオキタナゴの事なのです。
ですから、磯に現われるタナゴ類の幼魚も我々が目にしているのは殆どがオキタナゴでしょう。しかし、だからと言って、
「はい、ウミタナゴは数が少ないので無視しておきましょう」
とは思えないのです。特に、オキタナゴの出産の様子がある程度分った今となっては、
「じゃあ、ウミタナゴの出産はどうなんだ? オキタナゴと同じなのか?」
と言う事がどうも引っ掛かるのです。その個体数比に偏りがあるとはいえ、折角両種が同じ場所で見られるのですから、その差も見極めておきたいじゃありませんか。そこで、今年はまずウミタナゴから注目し始めました。差し当たってのとっかかりは次の様な点です。
と、まあ幾つか小難しい事を並べているのですが、結局遣ってる事は、
「ウミタナゴの妊婦が現われたら、その傍でひたすら見続けよう」
と言う、いつも通りの能のない作戦なのです。
「もっともらしいテーマの様な物を前もって考えて臨んでも、僕の性格からして、どうせ途中であらぬ方向に走って行ってしまうんだもの」
うん、さすがにこの年になると、自分の性向がよく分かっています。偉いぞ自分!
そこで、4月に入ってからはオキタナゴやウミタナゴの妊婦の出現に注意を払っていました。ところが、今年はそこで大きな異変が生じました。
毎年、4月中旬になると、お腹を大きく膨らませたオキタナゴのメスがどこからか現われて大きな群れを作ります。出産の準備の為の里帰りと言う所なのでしょう。昨年・一昨年はその数が特に多く、場合によっては100匹以上の群れにまで膨れ上がりました。しかも、そんな群れが数箇所に出来るのです。臨月を迎えた妊婦の群れからは、
「ふっ、ふっ、はっ、はっ」
と言う苦しげな息遣いすら聞こえて来そうです。ところがです。今年はそのオキタナゴの妊婦の姿が全く見られないのです。百匹どころか10匹の群れすら見られません。ゴールデン・ウィークを迎える頃になっても全くダメ。
「一体どうしてしまったんだ?」
こんな事は今まで経験したことがありません。オキタナゴの身の上に一体何があったのでしょうか。ここで思い出されるのは、昨年秋に見られたオキタナゴの白点病です。
昨年10月頃、富戸の浅場はオキタナゴによる嘗て無いほどの巨大な群れに占拠されました。数千匹と思えるオキタナゴが大河の流れを思わせる様にとうとうと泳いでいました。ところが、その群れの殆どの個体の体表がカビの様な白い点々に覆われていたのでした。寄生虫の一種である白点病の様です。

白点病のオキタナゴ (2007/10/21)
「これが命に関わる病気だとしたら、富戸のオキタナゴにとって一大事じゃないんだろうか?」
と、とても不安な気持ちになりました。ところが、12月頃になると、秋よりも個体数は大幅に減ったものの、例年とさほど変わらぬ数のオキタナゴのオスが激しい求愛を繰り返す光景が見られました。白点病も殆どが癒えていた様に見えました。
「よしっ、これなら、春にはまた出産ラッシュが見られるだろう」
と一安心したのでした。ところが、今年の春にこうなのです。あの皮膚病の後遺症なのでしょうか。
その一方で、ウミタナゴはいつもと変わらぬ様子です。ウミタナゴも昨年の秋にかなり大きな群れになっているのが見られましたが、こちらは特に病に冒されている様子はありませんでした。そして、4月中旬頃には腹ボテの妊婦が少しずつ見られる様になって来ました。この段階では、
「オキタナゴの影響を排して、ウミタナゴだけが自由に出産できる」
と言う嘗てなかった環境が整えられつつあったのです。
「これは、是非、ウミタナゴの出産を見届けたい」
とエンジンが更に唸りを上げるのでした。 (つづき)
2008/06/01 「富戸の純粋培養」 へ続く
2008/05/27 記
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