富戸の極地研究所 (2008/03/29)

 いやぁ、一気に春の襲来という感じです。富戸近辺のソメイヨシノは何処もかしこも満開です。日本人のDNAに刷り込まれているせいなのでしょうか、桜並木の下を歩いているとやはり何やら心が騒いで来ます。


 月日; 2008年03月29日(土)
 天候; 晴れ
 気温; 11〜17℃
 水温; 16℃ (水温は更に1℃上昇)
 透明度; 10m 
 海況; 並
 潮回り; 満潮 = 06:57 (134 cm)、 干潮 = 14:20 (31 cm)
       小潮、 月齢 = 21


 さて、ナヌカザメの卵の話はもう少し続くのですが、またまた緊急事態発生につき横道にそれます。毎度寄り道ばっかりで、どれが本当の道なのか分らなくなってきました。小学校の頃も、

  「学校が終わったら真っ直ぐ帰って来なさい」

とよく叱られたものでした。

 そこで、話は先週に遡ります。折角の飛び石連休だったのですが、春分の日の21日(木)、翌22日(金)は海が荒れ狂って富戸の海はクローズでした。そして、23日(土)は、北東風が残るものの、ギリギリ・オープンとなりました。とは言え、まだうねりが残っており、

  「潜っていて楽しい」

と言える条件ではありませんでした。ところが、岸に向かっての風が強い日にはうねりはあるものの、普段目にする事の少ない沖の生き物が流されて来ます。この日もいろんなクラゲがあちこちでフワフワ沢山浮かんでいました。

  「きれいだな」

と思うものもあったのですが、カメラのファインダーを覗いている間も体がうねりで揺れて気持ち悪くなるので肉眼で見るだけで通り過ぎていました。そんな時です。ポヨヨンとした透明なゼリー状のものが目の前を漂っているのに気がつきました。

  「何だろう・・」

と目を凝らす内に・・

  「ああっ! 卵シートだっ」

と気付きました。むぉ〜っ、と僕の頭の中は一気にヒートアップです。

 魚の多くは卵を水中に産みっ放しにします。受精卵は水中に散らばって、孵化するまでの間を波任せ・潮任せで過ごすのです。ただ、アンコウやカエルアンコウ・カサゴの仲間には、ゼリー状のシートに卵を並べて塊で産み出すものが居ます。このゼリー状卵塊は「卵帯」と言うのが正式名称のようですが、僕は「卵シート」と呼んでいます。

 これまでも、この卵シートを富戸の海で見た事は何度かありました。特に、2003/05/18 に見たものは 1m 近くもある巨大なシートで恐らくアンコウやキアンコウのものと思われました(ちなみに、この日もうねりが入ってクラゲが多く見られました)。


中層を舞う大きな卵シート(2003/05/18)

但し、卵を見た限りではアンコウらしさは何処にも感じられず、謎の卵と言うレベルを突破する事は出来ませんでした。


シート中の卵(2003/05/18)

  次にこのシートを見たのは 2004/08/22 のこと。この時も 2 メートル近い長大な卵シートでしたが、季節は真夏ですから、春が産卵期のアンコウの卵としては遅過ぎます。かと言ってカエルアンコウやミノカサゴ等のシートとしては大き過ぎます。そこでこの時は、シートの一部を採取して持ち帰り、孵化させてみることにしました。採取後 2〜3 日で卵は無事孵化しましたが、やはりその正体は分りません。


卵シートから孵化した仔魚 (2004/08/25)

 そして、孵化仔魚を富戸の海に返してやる前に全て死なせてしまいました。どうも、孵化した仔魚の動きを卵シートが束縛したり、生理上に悪影響を及ぼしているようでした。

 と言う事で、何やらモヤモヤが解消されぬままに数年を過ごして来たのでした。そして、そんな事を忘れた頃に久しぶりに見る卵シートです。ところが、今回の物は波に強く揺られたせいか、或いはキタマクラに齧られたせいか、既にボロボロで、20cm程度に小さく千切れていました。

「う〜ん、採取すべきかなぁ。どうしようかなぁ〜。でも、持って帰ってもまた死なせてしまうだけかもしれないしなぁ」

更に、いつもはBCのポケットに入れている採取用ジップロックをこの時ばかりは持っていませんでした。そうして躊躇する内に、次のうねりでシートはフワフワと舞い上がってしまいました。それで何となく気勢をそがれた気がして、

  「ま、いいか」

とこの日は諦めたのでした。

 でも、やはり気になるのです。この辺のウジウジ思い切れない所が昔から変わらぬ性格です。そこで翌日、

  「よし、今日もまだ見られたらシートを少量だけ採取しよう」

と心に決めて、ジップロックをポケットに忍ばせてエントリーしたのでした。そこで、昨日シートを見掛けた辺りを時間を掛けてじっくり探していると、ありました、ありました。ネジレモクに小さなシートが引っ掛かって揺れていました。


卵シートの絡まったネジレモク (2008/03/30)

この日はうねりも比較的緩やかだったので、まずはカメラのレンズ越しに卵をよく見てみました。

 すると、卵黄に巻きつくよう胚体、黄色の目立つ油球、線香花火の様に散らばる黒い色素など全てが2003年5月に見たものとそっくりでした。


ネジレモクの卵 (2008/03/30)

 「よしよし、これを上手く孵化させてキアンコウである事が確かめられれば、あの時のものも同じと考えてよいだろう」

と、そっとジップロックに仕舞って Ex したのでした。卵は恐らく15〜20個程度はあると思われました。これ位少数だと、小さな容器でも余裕を持って育てられそうです。卵シートが孵化仔魚に影響があるとしても、それをかなり軽減できるでしょう。そこで、これを 2L のタッパウェアに移して持ち帰り、自宅の部屋で成長を見守る事にしました。飼育条件は以下の通りです。

 ここでちょっと気になったのは水温です。飼育容器は部屋にほったらかしで特別な水温管理はしていません。ところが、僕はエアコンもストーブも嫌いで、我が家で暖房装置と言えるのは電気コタツしかないのです。だから、冬は

  「部屋に居るのに息が白い」

とお客さんから驚かれる程です。暖かくなったとはいえ、室温はまだ10℃程度だったらしく、水温は11〜12℃でした。現在の富戸の水温が15℃もあることを考えると、卵にとっては、

  「寒〜い」

と言う条件かも知れません。

  「そうかぁ、うちは富戸の水温より寒いのかぁ」

と極地並の我が家の厳しい居住環境を再認識したのでした。さあ、観察の始まりです。 (つづく)

2008/03/30 「富戸でクネクネ」に続く

2008/04/01  記

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