いやあ、濁ってます。
「透明度も徐々に回復の方向」
と聴いていたのですが、前日の風雨にかき回されたのか、うねりは残っているし、浮遊物も満載です。でも、これはこれで確かな春の訪れです。
月日; 2008年03月15日(土)
天候; 晴れ
気温; 13〜17℃ (暖か〜い)
水温; 14℃
透明度; 5m・・・もないかな?
海況; ややうねり
潮回り; 満潮 = 07:39 (137 cm)、 干潮 = 15:50 (27 cm)
小潮、 月齢 = 7
さあ、ナヌカザメの卵の話をと言うところなのですが、緊急事態発生につき、話が少し横道にそれます。今回のテーマはマナマコです。
僕とマナマコの付き合いもかなり長くなりました。そもそもは、
「春から初夏の或る日に、広い範囲のマナマコが一斉に鎌首をもたげて放精・放卵するのは一体何を合図にしているのだろう」
と言う疑問からでした。
マナマコの放精
或る年には3月に見られる放精・放卵が別の年には5月にずれ込んでしまうのです。彼らは何を基準に放精日を選んでいるのでしょう。そして、互いの放精・放卵をどうして同調させる事が出来るのでしょう。
但し、この議論には前提があります。それは、
「マナマコの一斉放精放卵は一年に一度しかない」
と言う事です。これは、週末ダイバーの僕の経験則に過ぎず、生物学的に正しいのかどうかはまだ分りません。出来るならば、平日も潜っている地元のガイドさんなどと協力して観察すればいいのでしょうが、残念ながらマナマコなんてガイドさんには全く人気がありません。今の時期は皆さん、ダンゴウオ情報には神経を尖らせておられるのですが、訳の分らないグニョグニョの生き物ではガイド・ネタにならないのでしょう。
但し、僕自身も、マナマコの放精・放卵を1年に複数回見た事が何度かあります。しかし、それは非常に限られたエリアでごく少数の個体が地味〜に行なっているだけであり、「そこら中で一斉に」と言うのはやはり年に一度しか見た事がないのです。よって、今はそれを前提に話を進めます。
さて、これまでの記録を元にまとめると、マナマコの放精放卵日には以下の様な特徴があります。
上の項目の内、時刻はかなり重要です。今まで観察して来た限りでは、マナマコの放精・放卵は殆ど午後2時以降です。ところが、この時期はダインビングの最終
Exit 時刻が3時なので、たまたま3時以降に放精・放卵があったならば、それを観察する事はできず、記録上は「放精・放卵なし」になってしまいます。でも、これも富戸ダイバーの宿命なので仕方ないでしょう。
さて、これだと殆ど何の手がかりにもなりません。ところが、よく調べると、水温とは密接な関係があるようなのでした。水温と言っても、
「海水が xx 度になったら放精・放卵する」
と言った単純な規則性ではありません。2000、2001、2003年の3年間のデータから、
「水温が15℃を超えた日が一定以上になる(積算水温)と放精・放卵のスイッチが入る」
と言う法則でした。僕はこれを、「摂氏」「華氏」に続く新たな温度単位として「ナ氏」と命名し、鼻高々でした。ところが、所詮は素人考えですから、それほど普遍性を持つ訳ではなかったのでした。
この理論を構築した翌年・2004年の放精・放卵日は「ナ氏理論_」では3月23日になる筈だったのですが、実際には4月11日だったのです。19日もの大きなずれでした。そして、単純なナ氏理論に決定的な鉄槌が下されたのが昨年の事。2007
年の1月以降は僕が富戸を潜り始めて以来の高水温が続き、上記の理論では非常に早い時期に放精・放卵が見られる筈でした。ところが実際には、5月2日と言うこれまでで最も遅い時期なのでした。
「桜の開花時期も単に気温が高ければ早いと言う物ではなく、暖冬の年(冬季に十分冷え込まなかった年)には却って遅くなる」
と言うのと同じ「休眠打破」という仕組みが働いていたのでしょうか。この様に、理論(と言うほどのものではないのですが)と実際の間に明らかな差が生じたのは何故なのでしょう。
などが考えられました。水温記録の問題は今すぐには解決できないから仕方ないとして、はじめの「ナ氏理論」を補完するメカニズムとして僕が昨年注目したのが、「温度ジャンプ」の問題でした。昨年、史上最も遅い時期に放精・放卵が見られたのは、水温が16℃から18へと急に上昇した時でした。この急な温度変化が放精・放卵を誘発したのではないでしょうか。
その様な温度変化の影響は、ナマコの養殖技術からも分ります。飼育しているナマコを放卵させるには、海水温が15〜17℃になった頃、更に5〜6℃高い海水に移すとその温度変化が刺激になって1〜1時間半後にはまずオスが放精し、つづいてメスの放卵が誘発されるのだそうです。実際の海で、5〜6℃も温度が急に変化する事はありませんが、それまで寒かった海がポーンと暖かくなるような瞬間に放精・放卵のスイッチが入ることはあるのかも知れません。そこで、今年はそんな温度変化に注意を払うことにしました。
まず、3月に入ると、「マナマコ警戒レベル3」の態勢に入りました。午後のダイビング時には彼らの動きを何箇所かでチェックします。でも、今まで放精・放卵が観られたのは、何れも水温が15℃に上昇してからの事だったのに対して、2月24日以降の富戸は水温が13℃貼りついたままです。恐らく、目立った動きは無いだろうと思われました。
ところがこの日、朝一番に潜ってみると、久しぶりに水温が14℃に上昇していました。
「まだ15℃には達していないけれど、この上昇には要注意だな」
と「マナマコ警戒レベル2」に上げて、マナマコの様子を見て回りました。放精・放卵を控えたマナマコは、少しでも卵や精子を遠くへばら撒こうとするのでしょう、海藻の上や岩のテッペンに這い上がって来る姿が多く見られるようになるのです。でも、朝一番で巡回した限りでは、
「う〜ん、特別な動きは無い気がするな。まだ14℃だしね」
との判断でした。
ところが、午後のダイビングの事。少し砂地を回ってから、岩場に上がった僕は驚きました。目の前でマナマコが身をくねらせる様な妙な動きなのです。そして、やがて頭をニュニュニュッと少し持ち上げたのでした。
「あっ、あっ、あっ! これは放精・放卵が近づいている証!」
そこで、僕は全速フィンキックでヨコバマのダイビング・エリアの端から端までを泳ぎながら、ナマコの様子を見て回りました。
「やはりっ!」
あそこでもここでも、ほぼ全エリアのマナマコが身悶えしていたのでした。予想より早く遣って来た一斉放精・放卵です。
「アワワワッ!」
予期せぬ事態に僕は大慌てです。

ニゴニゴ緑の海で直立するマナマコ
僕は、マナマコ観察エリアと前もって定めていた場所(ナマコの生息密度が高いエリア)に向かいました。すると、やはりマナマコの異変に気付いたタラバ・イエロー隊員と落ち合いました。そこで、僕はそこで幾つかの個体を観察、イエロー隊員は広く観察すべく泳ぎ出しました。まずは、この日のマナマコの動きをご覧下さい。
オスの放精は遠目でも比較的分り易いのですが、メスの放卵は淡いピンクの粒々の放出なので良く目を凝らさないと見逃してしまいそうでした。
そう、ここでマナマコを巡るもう一つの問題です。マナマコの放精・放卵と書きましたが、いつも、
「ほとんどが放精で放卵はごく僅か」
と感じていたのでした。そこで、この日、イエロー隊員は付近の直立ナマコの性別を調べて回ったのでした。すると、当日調べた20個体の内、メスは3個体であり17個体、つまり全体の85%はオスだったのでした。やっぱり。ナマコの世界はこんなにも男余りの世界なのか? それとも、オスの精子が水中に満ち満ちたのを確認して、これからメスの放卵が盛んになるのでしょうか。
「う〜ん、もう少し長く見続けていたい」
と思ったのですが残念ながらここでタイム・アップ、最終 EX 時刻の3時になりました。慌てて
Ex ポイントに向かいあたふたと海を出ました。
「ふぇ〜、予想外の展開だったぁ〜」
と大きく深呼吸。でも、何とか貴重な瞬間を捉える事は出来ました。しかし、その一方でマナマコの謎は更に深まりました。
う〜、今まで築き上げて来た知見がガラガラと崩壊しそうな予感です。次のページをめくってみたいような、みたくないような。僕の手はぶるぶると震えるのでした。
2008/03/18 記
HP表紙へ > 生き物の記録・最新へ > 生き物の記録・2008年へ > 本ページ