二人目の富戸 (2007/11/03)

2007/10/21-3 「富戸ラダ・ファミリア」より続く

 今週も相変わらず微妙なうねりが続いています。毎週書いていますが、そろそろ穏やかで明るい海を見たいなぁ。

 月日; 2007年11月03日(土)
 天候; 曇りのち晴れ
 気温; 15〜19℃
 水温; 20℃ (少し下がったぞ)
 透明度; 10m
 海況; 少しうねりあり
 潮回り; 満潮 = 13:22 (131 cm)、 干潮 = 05:14 (55 cm)
       小潮、 月齢 = 23


11月03日の脇の浜

11月03日の水の色

 夏が産卵期だと思っていたアオサハギの産卵をタラバイエロー隊員が思いがけず目撃しました。さあ、そこで僕が一番気になるのは、アオサハギが卵を産み付けたカイメンの正体です。論文の報告によると、カイメン界では圧倒的に少数派である石灰カイメンがアオサハギに選ばれるとされているのです。


アオサハギが卵を産み付けたカイメン(矢印部)

 では、今回産卵が見られた上のカイメンは本当に石灰カイメンなのでしょうか。図鑑をあれこれ調べたのですが、結局その名前を突き止める事が出来ませんでした。

「種の名前とまでは言わずとも、せめて、これが石灰カイメンの仲間かどうかだけでも知りたいなぁ」

と思うものの完全な手詰まり状態になってしまったのです。そこで、仕方ありません。アオサハギの産卵を論文発表なさっている東海大学の赤川泉さんに直接質問してみる事にしました。たった一度お会いした事があるだけなので失礼かと思ったのですが、富戸における今回の記録とカイメンの写真を添えてメールをお送りし、これが嘗て産卵を観察なさったカイメン(学名:Grantessa Mitsukurii ) と同じであるかどうかを質問させて頂いたのでした。

 すると、何と、その日の内に丁寧なお返事を頂きました。

  「うへ〜、嬉しい〜」

アマチュア・ダイバーの曖昧な質問なのに、本当にありがとうございました。

 さて、お返事を一読してまず驚きました。赤川さんは、1991年から1993年の油壺と水槽観察の結果を論文にして1995年に発表なさっています。今から12年も前の事です。ところが、その発表以降、アオサハギの産卵を観察した例を全く耳にする事がなく、今回がご自身の観察に次ぐ2例目なのだそうです。

  「ひぇ〜っ、ひょっとしてイエロー隊員が二人目?」

いや、その間、日本で誰も見ていなかったとまでは思いませんが、今回が非常に数少ない貴重な目撃例であったのは確かな様です。

 さて、問題のカイメンです。やはり学者さんだけあって、種の同定は骨片を精査しないと正確な事が言えないと慎重な姿勢です。ただし、ご自身が油壺でご覧になったものとは違って見えるのだそうです。

  「う〜ん、残念。少なくとも外見上ズバリと言う訳ではなかったんだな」

カイメンの同定は赤川さんも当時頭を悩ませたそうで、カイメン研究の第一人者の先生に標本をお送りして査定して頂いたのだそうです。やはり、カイメンの世界は素人が安易に足を踏み入れる事が出来ない世界なのですね。

 赤川さんご自身も論文のなかでアオサハギのカイメン選択性について述べられています。まず、水槽に雌雄のアオサハギだけ入れてカイメンを入れないと、個体の体はいつでも産卵・放精できる準備が出来ているにもかかわらず産卵は見られないのだそうです。


富戸のダイダイイソカイメン

 次に、平べったいダイダイイソカイメン(普通カイメン)を水槽に入れた場合は、メスは産卵したものの、卵はカイメンの中に収まれずに溢れ出しました。そして、5cm程の高さのある石灰カイメン(Grantessa Mitsukurii ) を水槽に入れると産卵が見られ、卵もカイメン内部に収まったのでした。これより、赤川さんは、アオサハギの産卵基質となり得るカイメンの条件として、

「数センチの高さがあり、アオサハギが腹を押しつけても、ちゃんと支えられる構造」

を考えておられるのだそうです。そう言った意味では、今回の富戸のカイメンはこの条件を満たしています。

 しかし、くどい様ですが、僕が気になるのは

  「その条件を満たすのは石灰カイメンだけじゃないだろう」

と言う事です。なのになぜ石灰カイメンでなくてはならないのでしょう。事実、上の水槽観察でも、他に選択肢がなかったらダイダイイソカイメン(普通カイメン)に産卵しているのです。では例えば、オビアナハゼがしばしば産卵基質として用いているハネハリカイメンではどうしていけないのでしょう。


オビアナハゼとハネハリカイメン

 また、富戸には何処にでもあり、やはりオビアナハゼが産卵しているザラカイメンでは何か問題があるのでしょうか。例えば、アオサハギ・ペアの水槽に石灰カイメンとハネハリカイメンを一緒に入れておいてもやはり石灰カイメンが選ばれたのでしょうか。

 赤川さんがフィールドとされていた油壺でも、件の石灰カイメン(Grantessa Mitsukurii ) はかなり数が少なかったのだそうで、ご自身も、

  「石灰カイメンがないとどうなるのだろう?」

と心配なさっていたのだとか。

 こうなると、今回のカイメンが石灰カイメンなのかどうか益々知りたくなって来ました。アオサハギは本当に石灰カイメンでなくてはダメなのでしょうか。

「あ〜ぁ、とうとうカイメンの世界の深みにまで引き摺りこまれそうな予感」

 最早打つ手もないまま腕組みしてうなだれるのでした。 (でも、往生際悪くつづく)


参照:

2007/11/17 「コッペン富戸」 へ続く

2007/11/07  記

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