こんな季節に富戸 (2007/10/21 - 1)

 いつまでたっても富戸の海は落ち着きそうになく、澄み切った浅場でノンビリ・ダイビングの日はもう戻って来ないのかとすら思えました。この日も、幾分うねりは落ち着いて来たものの、脇の浜の波はまだ高く、海の色も秋らしくない白っぽさでした。そろそろ秋よ来い〜っ。

 月日; 2007年10月21日(日)
 天候; 晴れ
 気温; 15〜19℃
 水温; 21℃
 透明度; 10m
 海況; 少しうねりあり
 潮回り; 満潮 = 14:19 (137 cm)、 干潮 = 06:18 (52 cm)
       若潮、 月齢 = 10


10月21日の脇の浜

10月21日の水の色

 さて、このログのコーナーは、その季節季節に僕が見た海の中の出来事を記録して皆さんにご覧頂こうと開いたものです。ところが年のせいか、話は年々長くくどくなり、いつ終わるとも分からずグズグズ続くようになってしまいました。その結果、春の話が夏になっても続いていたり、夏の話が秋にまでずれ込んだりと言う事が当たり前になってしまいました。そこで、ダラダラ話が長引き始めたら

  「いかん、いかん、季節感重視なんだから」

と早々に切り上げて次のテーマに移るように心がけて来たつもりです。そして、

  「次はこの話にして、それが終わったらあれに移って」

と一応頭の中で計画は立てるのです。ところが、そんな時に限って思わぬ事に興味を持ってしまって、ログは予期せぬ方向に迷走し始めるのでした。今回も、そんな風に当初の計画が吹っ飛んでしまったお話です。

 この日、タラバイエロー隊員と共に朝一番にエントリーしたのですが、僕はそろそろ交尾季節が始まるオキタナゴの下調べをしておこうとそちらへ向かいました。イエロー隊員は、気の向くままと言う感じで何処かへ消えて行きました。

 そして、100分近くをオキタナゴの傍でのんびり過ごし、

  「そろそろ寒くなってきたかな」

と Exit ポイントへ向かった頃でした。丁度向うからイエロー隊員が遣って来るのが見えました。先方でも僕の姿を見つけた様子です。すると、急にダッシュで駆け寄って来ると、僕のBCにぶら下げた水中ノートをグイッと掴むではないですか。そして、慌てるようにそこに走り書きしたのでした。そこには、こうありました。

  「見た アオサハギ 産卵」

えっ? えっ? えっ〜〜〜〜?!!

 僕はここで、シロナガスクジラに突然パックリ飲み込まれ、直ぐに肛門から排出されて気が付いたら元の場所に居た様な衝撃を感じました。

 6月に入った頃からでしょうか、岩場でお腹の皮を広げて青く色づいているアオサハギのオスを度々見掛ける様になります。


メス(左)を追うアオサハギのオス(右)

 そんなオスは同じく色づいている別のオスと争っている事もありますが、何と言っても目を惹くのはメスを追う姿です。メスの前に先回りしてお腹の皮を広げてアピールしたり、時には体に口づけするような仕草すら見せます。これはもうどう考えても求愛でしょう。

「ひょっとしたら産卵の瞬間を見られるのかも・・。どこでどんな風に行われるんだろう」

 そこで、そんなペアを見掛ける度に少し離れた場所から2匹の行く末を見守るのですが、その気のないメスに振られてオスが一人寂しくはぐれ旅という例ばかりなのでした。毎年、毎年、来る年も来る年もペアを見かける度に

  「どうせダメなんだろうけど・・」

と思いながら2匹を追うのですが、

  「なによ、もうちょっと男を磨いてから来れば?」
  「しょぼ〜ん」

の場面が繰り返されるばかり。そこでいつしか、オキタナゴの出産と並んで、アオサハギの産卵は、

  「見られそうだけど決して見る事が出来ないもの」

になっていたのでした。

 けれど、求愛の現場はあんなに見る事が出来るのに、どうして産卵の瞬間に出会う事がないのでしょう。幾つか考える事が出来ました。

 まず一つは、オスがお腹の皮を広げてメスにアピールする姿は、僕が想像するような求愛ではなく、産卵とは直接関係のない行動なのかも知れないと言う事です。1999年に、それまでどうしても見る事が出来なかったキタマクラの産卵を遂に突き止めた時もそうでした。キタマクラのオスもメタリック・ブルーに輝いて、中層のメスの行く手を遮る様にアピールを繰り返す姿をしばしば眼にしていました。当時の僕は、こうしてメスを口説いてから放卵・放精に持ち込むのだろうと考えていました。ところが、実際はそれは産卵とは直接関係のない行動だったのです。そこで、全く視点を変えた途端、キタマクラの産卵の現場を押さえる事が出来たのでした。

 アオサハギもこれと同じなのではないでしょうか。ネチネチとメスを追うオスの姿についつい眼が行きがちなのですが、それに惑わされない新たな視点が必要なのかも知れません。でも、それが何なのかは分からないのです。

 2番目の可能性は、産卵時刻の問題です。これまで僕は、

  「アオサハギの産卵を見た」

と言う人に会った事がありません。また、その現場を見たと言う情報をネット上でも見つける事が出来ません。それほど珍しい魚であるとは思えないし、どちらかと言うとその愛くるしい姿から人気のある魚と思われるのに、これはどう言う訳なのでしょう。それは、ダイバーが見る事が出来ない様な時刻に産卵しているからではないのでしょうか。

 アオサハギの産卵について現在手に入る唯一の資料は、東海大学の赤川泉さんの報告です。油壺での観察によると、早朝 6:30 頃に産卵が見られたとなっています。これでは、我々富戸ダイバーが見られる筈はありません。アミメハギも早朝に産卵する事が知られていますが、それと同じパターンなのかも知れません。でも、アミメハギの場合には日中に求愛めいた行動を見る事はありませんが、アオサハギはオスのあのアピールがどうしても気になります。日中に産卵していてもいいのではないでしょうか。

 昨年、赤川さんに直接お話を伺う機会がありました。そこで、このアオサハギの産卵時刻について質問してみると、ご自身がフィールドで見る事が出来た例はまだ数少ないので、日中に産卵している可能性もあるとの事でした。ふむ、じゃあ一体何時頃なのでしょう。どうして我々は見る事が出来ないのでしょう。

 そうして、もう一つの問題が「カイメン問題」です。先の赤川さんの報告では、アオサハギはカイメンの中に産卵するとされています。砂底に産卵するカワハギヨソギなども属するカワハギ科の中にあって唯一の特異な生態です。ちょうど、ザラカイメンやハネハリカイメンを産卵場所に選ぶオビアナハゼと同じ様な智恵なのでしょう。但し、アオサハギにとってカイメンならば何でもよいと言う訳ではありません。彼らは石灰カイメンを選んでいるのだそうです。

 カイメンは、その骨格の特徴から、石灰カイメン綱、普通カイメン(尋常カイメン)綱、硬骨カイメン綱、六放カイメン綱の4種に分かれるのだそうです。今、問題となっている石灰カイメンは骨格が炭酸カルシウムが主成分なのだとか。

 ま、そんな小難しい事はどうでもよいのですが、問題は、カイメン動物の中の実に90%以上は普通カイメンであるという事です。実際、富戸の海で見る、ザラカイメン、ワタトリカイメン、オオパンカイメン、ハネハリカイメンなど、お馴染みのカイメンは全て普通カイメンです。

  「アオサハギは一体どのカイメンに産卵するんだ?」

という疑問が残ります。

 そこへ、タラバイエロー隊員の

  「見た アオサハギ 産卵」

です。僕は2重、3重に驚きました。まずは、

  「富戸でも日中にアオサハギの産卵が見られるんだ」

と言う驚きが一つ。そして、

「夏が繁殖期の筈のアオサハギがまだこの季節になっても産卵しているのか」

と言う驚きがもう一つ。更に、

  「富戸にもアオサハギが産卵出来るカイメンがあったのか」

という驚きが一つです。

 昨年のオキタナゴの出産に続いて、長年の懸案についてまたイエロー隊員に先を越されてしまいました。でもまずは、イエロー隊員の見たアオサハギの産卵の様子を検証してみましょう。 (つづく)


参照:

2007/10/21-2 「富戸グラフィックス」に続く

2007/10/23  記

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