富戸で固まる (2007/09/01 - 2)

2007/09/01-1 「富戸の空腹食堂」より続く

 クマノミは卵を岩面に産み付ける際、

  1. はじめは一定範囲内をデタラメな卵列で埋めて行って基本形を作る
  2. 以降は、隙間を作らぬ様に卵塊の範囲を少しずつ広げていく

という 2 段階産卵法を取っている様に思えました。

これは、

  1. 間違いなく卵で埋め尽くせる程度の大きさである基本形の完成までは気を遣う事無くデタラメに産卵する
  2. 基本形完成後は、お腹の中の残りの卵がいつ打ち止めになっても良いように、基本形の外側に隙間を作らぬ様に生みつけ続ける

と言う、「空腹食堂メカニズム」に拠るのだと僕は考えました。これが合っているのかどうかはクマノミにでも聞かない限り分りませんが、これがクマノミ産卵の一般的なルールと言ってよいのかどうかは、別の場所、別のペアの産卵を始めから終わりまで観察する事で確かめられそうです。

 そのチャンスが9月1日(土)、意外と早く遣って来たのでした。チョロQ(メス)とチョコボール(オス)のペアからなるポイント・テッペンの産卵がこの日に見られるかもしれないと睨んでいたのです。この前の週に観たポイント・オンセンのタイム・テーブル通りに産卵が進むのだとしたら、開始は10:30〜11:00 頃と思われます。でも、この日は念の為に早めの9:00から、タラバイエロー隊員と共に観察を始めました。このポイントは水深6m程度ですので、エアは2時間半から3時間はもつと思われます。凡そ正午までの勝負です。

  「でも、今日産卵があるとしたらお昼までにはほぼ終わっているだろう」

と言うのが僕の読みでした。

 そこで、現場のテッペンに着いてすぐさまクマノミの様子を窺ってみると、何と2匹とも中層をウダウダと泳ぎ回っているではないですか。

「えっ? 産卵前だとしたら今頃は産卵床の掃除をしていなくちゃならない筈だけど」

と、今年既に5〜6回は産卵を繰り返している岩面を覗き込んでみると、まだ卵はありませんし、ハッチアウト直後に見られる白いフワフワしたゴミ(卵嚢?)の様な物も見られません。

「う〜ん、この産卵床の様子だと今日産卵でもおかしくないんだけどなぁ。肝心のクマノミがあの遣る気の無さではなぁ」

 すると、2匹がスイーッと下りて来て、口をパクパクさせて岩面の掃除を始めたではないですか。


岩面を掃除し始めたペア

  「おおっ、やっぱり今日遣る気なのか」

と僕は色めき立ったのですが、2匹はすぐに掃除が飽きてしまったかのように、また中層に上がってしまいました。

 この様にして思い出したように岩面をパクパクと掃除、直ぐに嫌になって中層に泳ぎ上がると言う事を延々と繰り返し始めたのです。前の週にポイント・オンセンで見たクマノミ・ペアの勤勉な掃除には遠く及びません。

  「こりゃあ、産卵はまだまだ先だなぁ」

と溜め息一つ。でも、こうなったら場所を離れる訳には行きません。こうして、30分、1時間、1時間半。ジリジリする様な時間が過ぎて行きます。僕らは、イソギンチャク畑の一角で微動だにすることなくクマノミ・ペアの動きを見つめるのみ。

 そうしている間のこと、傍を地元のガイドさんがお客さんと共に通り掛かりました。そして2匹のクマノミの動きを見て、

  「産卵しそうですか?」

と僕に聞いてきます。

  「いやあ、まだまだ」

と僕がジェスチャーで答えます。すると、ガイドさんはお客さんに

  「帰りにもう一度見ましょう」

と書いて共に去って行きました。そうして40〜50分が過ぎた頃、先ほどのガイドさんとお客さんがもう一度登場。が、まだ気まぐれな掃除を続けているだけのクマノミ・ペアを見て、とうとう諦めて行ってしまいました。

「あ〜あ、僕らがここで固まっている間にもあのガイドさん達は今が旬の色んな魚を見て楽しんできたんだろうなぁ」

と、また溜め息のゴボゴボゴボ〜。

 そして、間もなく11時。観察開始から2時間が過ぎようとしていました。前週のポイント・オンセンではもう産卵がガンガン進行していた時刻です。なのに、ここテッペンでは、ペアが掃除に費やす時間がドンドン延びて来てはいるものの、まだ産卵には到りません。

 その時、オスのチョコボールの下腹部からチョロリッと突起物が出ているのに気づきました。生殖突起が現われます。と言う事はオスは愈々放精の準備に入ったと言う訳です。そこで、片やメスのチョロQはと見ると、産卵管はまだ全く見えません。こちらはまだまだその気では無いようです。すると、この時オスが妙な動きを見せました。お腹を岩面にこすりつける様にして小刻みな動きで泳いだのです。これって、産み付けられた卵に放精する時のパターンです。

  「えっ?卵があるの?」

と眼を凝らすのですが、勿論そんなもの見当たりません。そうすると、オスはまた上体を反らしてお腹を岩にこすりつけます。

動画 クマノミの掃除 Windows Media
(10:58・・観察開始2時間後)

 以後、オスはこの動作をしばしば繰り返す事になります。放精時の動作ではあるのですが、勿論そんな筈はないので、これはオスが、

  「俺はもう準備OKだよ〜っ、産卵を始めようよぉ〜」

という意思表示のポーズなのではないのかなと思えました。

 さて、ここでゲージを見たところ、残圧はまだ十分あります。しかし、僕は考えました。

「まだ40〜50分は大丈夫だろう。でも、このオス様子だと産卵開始が迫っているのかも知れない。エアが丁度なくなる頃に産卵開始と言う事もあるかも知れない」

 そこで、ここは先を読んで、早めにタンクを交換して「その時」に備える事にしました。事情を傍のイエロー隊員に説明して、僕はExit ポイントにダッシュしました。そして、海を出ると速攻でタンクを交換して直ぐにまたエントリー、すぐさまキックキック。息を切らしてポイント・テッペンに戻って来ました。

  ハァーハァー、ゴボゴボーッ、ゴボゴボーッ。

 が、それほど焦る必要はありませんでした。クマノミ・ペアはまだ岩面の掃除中です。そして、時々休憩。そんな事を繰り返しながら更に1時間が経過。正午を迎えました。観察開始から遂に3時間です。この頃には掃除に費やす時間が長くなり、合間の休憩はかなり減って来ました。

  「まだかぁ〜? こんな事ならタンクを早めに交換する事もなかったな」

 そうして更に1時間近くして、観察開始後4時間になった頃のこと。午前中にクマノミペアの様子を見に来た地元ガイドさんとお客さんが再度現れました。まだ気になっていたのでしょう、2本目に再び覗きに来た模様です。僕は、

  「まだまだ」

のジェスチャーです。ガイドさん達はがっかりしてまた去って行きました。

 そうした12:50 頃、遂にメスの下腹部から産卵管がしっかり伸びて来ているのに気付きました。。

  「よしっ、先週の経験からすると、あと10分ほどで産卵開始だっ!」

ず〜っとアイドリング状態だった脳みそのエンジンも漸く回り始めました。すると、メスがその産卵管を岩面に押し付けるようにしてツツツッと移動し始めました。

  「始まったかぁ〜?」

とグイッと身を乗り出します。が、オレンジの卵は見当たりません。でも、メスは下腹部を突き出して折り返すようにもう一度ツツツッ。

  「やっぱり卵はないぞ〜」

 これは前週でも同じでした。卵の産み始めのメスは、産卵の動作を取りはするものの卵は実際には産み出されません。恐らく、その間に産卵管の先っぽにギューっと卵を絞り出しているのではないでしょうか。でも、卵がまだ出て来ないからと言って油断はしてはなりません。そして、午後1:00丁度、観察開始から何と4時間が経過した時です。


産卵開始 1:00

 遂に産卵が始まりました。卵の列が綺麗に1筋見えます。上の写真の矢印部分が恐らく最初の一粒だと思われました。では、それ以降の産卵の様子をご覧頂きましょう。


産卵開始後 1分 (1:01)


産卵開始後 5 分 (1:05)


産卵開始後 10 分 (1:10)


産卵開始後 16 分 (1:16)

 やっぱりそうです。はじめはデタラメな卵列が並び卵塊は隙間だらけですが、産卵開始後10〜15分で一定の大きさの卵塊(基本形)がほぼ出来上がり、隙間も凡そ埋められています。この成り行きや時間的な経緯は、前週にポイント・オンセンで見た時と全く同じです。そして、ここから産卵は以下の様に続きました。


産卵開始後 21 分 (1:21)
卵塊下端付近に産卵するメス


産卵開始後 31 分 (1:31)
卵塊左端付近に産卵するメス
(矢印付近が最初の一粒)

 これまたやっぱりです。基本形完成以降は卵塊中に隙間が作られる事はなく、主に端部への産卵を続けて卵の範囲は少しずつ少しずつ広げられて行きました。「2段階産卵法」は個体や場所によらず、クマノミに共通した作戦と言えそうです。

  「むふふ、そうだろう、そうだろう」

観察開始後3時間半を経過した疲れた頭ではありましたが、水中で僕はニンマリです。

 ちなみにこの産卵中、件のガイドさん一行がまたまた様子を窺い来ました。今度こそはピッタリのタイミングです。嬉しそうに写真を撮ってから去っていかれました。しかし、よくよく考えて見ると、普通のダイバーの方が1本潜って、温泉丸に入って水面休息して、お昼ご飯食べて、2本目を潜り終えるまでの間、ずっと我々はこの場所で固まっていたのです。いやぁ、よく頑張ったなぁ〜。とっても疲れたけど。

 産卵開始40分後、観察開始後4時間40分を経過した時に、とうとうエアの残りが危なくなって来ました。

「あぁ、1本目のタンクの交換のタイミングをもっと後にずらしておけばよかったなぁ」

と思ったものの、もう十分でしょう。静かにその場を後にしたのでした。

 ちなみに後ほど別の地元ガイドさんに伺ったところでは、午後2時半頃、産卵開始後90分を経過した時点でも、メスはまだ産卵管を出してほそぼそと産卵を続けていたのだそうです。

 このあと、Exit して温泉丸に入って

  「ふぅ〜」

と大きく深呼吸です。

「いやぁ、今日は長かった〜。でも、思った通りの展開が確かめられてよかったなぁ〜」


これまでの「張り付き時間最長記録」はキンセンイシモチノ産卵に注目した3時間でした。が、今回は途中で数分のタンク交換時間はあったものの、大幅自己新の4時間40分となりました。

  「ふぅ〜」

と再び深呼吸です。でも、この日見たクマノミの産卵ストーリーはこれで終わりではなかったのでした。 (つづく)

2007/09/02 付けログ 「富戸でフワフワ」に続く


2007/09/02  記

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