富戸で「ぼくの夏休み 2」 - その1 (8/13)


 この夏合宿の間のタナバタウオを巡るあれこれを「ぼくの夏休み」として報告させていただきました。が、折角の夏休みをなにもあんな地味な魚ばかりを見て過ごしていた訳ではありません。
 今回は、いよいよ夏の「自由研究」のお話です。テーマはクロホシイシモチです。えっ? ヤッパリ地味ですか? そ、そうかなあ。

 月日; 2003年8月13日(水)
 天候; くもり
 気温; 25〜26℃(少し肌寒い) 
 水温; 21〜22℃
 透明度; 5〜10m(何だかすっきりしないなあ)
 海況; やや波あり
 潮回り; 満潮 =  18:33 (156cm)、 干潮 = 11:38 (18cm)、 
        大潮、 月齢 = 14

今週の「園」

 まず、下の写真を御覧下さい。


 これ、通常のクロホシイシモチの群れとは少し異なる所があります。よく見ると、どのクロホシも顎が大きく出っ張っているのが分かります。そう、ここに写っているクロホシはどれも口内保育中のオスなのです。

 この時期のクロホシと言えば、口の中に卵をくわえたオスとそれに寄り添うメスのペアが見慣れた光景です。が、場所により、或いは時によってはこの様にオスだけが、しかも卵を持ったオスだけが集まる事があるのです。
 本HPからもリンクさせて頂いている「Izuzuki Diver」のVinさんは、卵をくわえたオスばかりのこの群れを「おやじ保育園」と呼んでおられます(VinさんのHPの「ネンブツダイ」のコーナーを参照)。そのネーミングが絶妙なので僕の頭にもしっかり刷り込まれてしまいました。

 さて、この様な群れの成り立ちは、普通、次の様に説明されています。


 メス・Bの産んだ卵をオス・Aがくわえたとします。オスはこの後、卵がハッチアウトするまでのおよそ7日間、健気に口の中の卵を育てます。が、それが孵化したからと言ってすぐ次の卵をくわえられる訳ではないのです。口内保育の間、飲まず食わずだったオスは一所懸命食い溜めをして体力の回復を図ると共に次の口内保育に備えるのです。それに最短6日程度は要します。ですから、オスは頑張っても13日に1回しか卵をくわえる事が出来ないのです。
 一方、メスは、産卵後10日程度で次の産卵の準備が整います。そこで、

 「よし、準備OK。さあ、行くわよ」

と言っても、ペアのオスはその頃は食い溜め期間中なので誘いに応じては呉れません。だから仕方なく、オスの準備が整うまであと3日待っている事も出来ます。でも、限られた繁殖期間中に少しでも多くの卵を産んで子孫を残したいメスにとっては意味のない3日を過ごす事はとても無駄な事です。よって、メス・Bに一番都合がよいのは、オスAをさっさと見捨てた後、丁度その時食い溜め期間を終えようとしているオス・Cと新しいペアを組むことなのです。

 こうして利用するだけ利用された挙句に捨てられたオスが集まったのが、先ほどの「オスばかりの群れ」と考えられます。その意味から言うと、「ヤモメ園」と呼ぶのが相応しいかもしれません。

 或る研究によると、産卵からハッチアウトまで同一の相手とペアでいる組み合わせというのは30%程度しかないのだそうです。70%のオスは捨てられているのです。

今週の「再発見」

 さて、去る7月のことです。浅場を移動していて何となくこのクロホシ・ヤモメ園に目が止まりました。いつもならば、

 「ああ、また居るな」

で、さほど気にすることもなく通過するのですが、この日はVinさんの「おやじ保育園」の言葉が頭に残っていたせいか、何気なくそこで立ち止まってボンヤリとその群れを見ていました。

 「お前達も哀れよのお。やることやったらさようならだもんなあ。『都
  合のいい男』という感じだよなあ」

そうしてこのオス達を見ていた時、妙な事に気づきました。

 「あれっ?この群れのオスの卵はどれもオレンジ色ばかりだぞ・・」

クロホシの卵は産みたての時にはオレンジ色をしています。それが時と共にくすんで来て目が出て来ます。やがて、少し白っぽくなってから目玉ギョロギョロの銀色になります。こうなったらハッチアウト間近です。


産卵直後(オレンジ)


間もなくハッチアウト(銀)

 小林安雅さんの「海中記」には、キンセンイシモチを例に、産卵からハッチアウトまでの卵の変化が写真で紹介されています。それによると、以下の様な変遷を遂げます。クロホシも殆ど同じじゃないかと想像します。

産卵後 卵の色
0日 オレンジ色
3日 くすみ
(目玉あり)
5日 銀色
8日 銀色
(ハッチアウト)

 さて、オスばかりの群れ「ヤモメ園」のオス達の卵がどれもオレンジ色ばかりであったという事は、産卵後間もないものばかりであったという事です。

 これはどういう事なのでしょう。そこで、夏合宿中の自由研究にはこの「クロホシの卵の色」を取り上げる事にしました。
  • ヤモメ園の卵がオレンジ色ばかりというのは本当だろうか?
  • もし、そうならばそれは何故だろう?
という事を調べて見ることにしました。クロホシイシモチにこんな面白そうな観察ポイントがあったなんて意外でした。思いもよらぬ再発見でした。

今週の「準備」
 
 こうしてこの後かなりの数のクロホシ・オスの口の中を調べていく事になるのですが、その方法も現場で少しずつ改良を加えて行きました。そこで、実際の観察方法を次にまとめてみました。少し退屈かも知れませんが、この後の議論の前提となりますのでご辛抱下さい。
  • ヤモメ園の定点観測点としては水深4mの岩場の群れを選びました。ここにはいつも30〜40匹の口内保育中のオスが群れています。実際、夏合宿の間、この群れは移動する事も、数を大きく変化させる事もなく安定して観察する事ができました。
  • 卵の色は、「オレンジ」「くすみ」「銀」の3種に分類する事にしました。これだと、海の中でも肉眼で見分ける事が出来そうです。それぞれが、「初期」「中期」「終期」に対応するものと考えました。
  • ヤモメ園やペアのオスはジッとしている訳ではありませんので、一定区域内の全ての個体を調べる事は出来ません。そこで、無作為抽出したサンプルで全体を推し量る事になります。そこで、現場で実際に「色チェック」を行ってみますと、卵を見やすい個体ばかりを追っていると真実を見誤ってしまう事にすぐに気付きました。というのも、「銀」卵になってハッチアウトが近付いたオスは、口をパカ〜ッパカ〜ッと開ける頻度がかなり高くなります。ですから、見易さを基準にサンプルを選んでいると、実際よりも「銀」の割合がかなり高くなってしまうのです。
  • そこで僕が取った方法は極めて単純です。サッと視線を向けた時にはじめに目に入った個体を徹底的に追うのです。ですが、口の中に卵があるのは分かっていても中々口を開けてくれないオスも多く居ます。そんな時、すぐ傍の別のオスが大口開けたりすると、「く〜っ、悔しい」と歯ぎしりです。でも、正確な無作為抽出の為にそれは数に入れずに狙った個体に集中、集中。
  • そして、意外と苦労したのが雌雄の判別です。卵をくわえて居たら下顎が大きく張り出しているのでオスだという事がすぐに分かります。また、卵をくわえていなくてもペアで居ると、その2匹の動きからオスを見分ける事も容易です。ところが、卵を持っておらずペアでもない個体の場合には「オスなのかメスなのか」がちょっと迷うところです。


 上の写真は、卵をくわえておらずペアでもないクロホシです。僕はこれはオスだろうと考えています。
  • メスはこの時期、何度も卵を産んでいるせいか、お腹が白くなっている事が多いのです。オスにも白いお腹をした個体がいますがその範囲はメスよりずっと狭い区域です。
  • 一方、オスは何度も卵をくわえたせいか、下唇がメスより少し突き出しているのです。丁度、いかりや長介のような口許です。
上の2点を手掛かりに雌雄を判別しました。それでもやっぱり、

 「あれっ? あれはオスなのかな? メスなのかな?」

と判断に困る単独個体が居ます。その時には他の個体に対する動きなどから適当に判断しました。えぇ、僕の遣ってる事は所詮その程度のいい加減さでございます。

 さて、以上で準備は整いました。でも、ここまで読んで頂いた方は、

 「こいつ、一体何をしようとしてるの?」

と思われているかもしれません。では、いよいよ僕が実際に観察した結果を御覧頂きましょう。
                       (つづく)

                       2003/08/19 記


参照: 「魚類の繁殖行動」 後藤 晃・前川光司 編、
                  東海大学出版会
 
富戸で「僕の夏休み2」-その2 に続く

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