Futorix Reloaded (5/24)


 「ええ、ええ、そうですとも。僕は読む人の事など考えずに、独りよ
  がりの話で突っ走ってますよ。それがどうしたの? 何か悪い?」

駄目だ。もはや完全に居直っています。
 という事で、「今度こそ終わった」と思われたマナマコの話が再び蘇ってきました。(今回のページの前に、まず前回の「富戸にスパコン」をお読み下さい)

今週の助け舟

 さて、マナマコの放卵・放精が富戸で見られた2000、2001、2003年分の水温データから、彼らの放卵の引き金をひくプログラムを読み解けないかとあれこれ知恵を絞って来ました。ところが、どうしてもうまい解を見出せないでいたのでした。

 ところが、その窮状を見かねたのか、アンダー・ウォーター・ナチュラリスト協会(AUNJ)代表の余吾さんが助け舟を早速出して下さいました。(ありがたいなあ。海の生き物の事でお困りの方は是非入会を!)

 ナマコの放卵・放精と水温の関係を考えるのに僕は積算水温(毎日の水温の足し算)をキーとして用いようとしました。そして、ナマコが夏眠から覚める温度を16℃と仮定して、富戸の水温が16℃を下回った日からの積算水温と放卵日とを何とか関係づけようとしたのでした。

16℃を下回ってから放卵まで
16℃を
切った日
放卵・放精日 積算水温
(℃)
2000 2000/01/18 2000/05/02 1621
2001 2001/01/05 2001/04/14 1557
2003 2003/01/01 2003/03/21 1254

 16℃を切った日というのは上表の様に年によって勿論異なります。ここが問題なのだそうです。産卵には、水温と共に日長(昼の長さ)も関係するので、その要因を組み込むには積算水温のスタート日は揃えた方がよいのだそうです。

 なあるほど。日の長さの事なんて全然考えていませんでした。では、スタート日を何処に起きましょう? そこで、記録をたどってみると、今シーズンにマナマコをはっきりと確認したのは昨年の12月15日でした。実際にはもっと早い時期に出現していたのかも知れませんが、ひとまず此処を「マナマコが夏眠から目覚めた日」と決めることにしました。そして、この12月15日から放卵日までの積算水温を算出してみました。

前年12月15日から放卵までの積算水温
2000 2001 2003 平均
積算水温(℃) 2182 1924 1535 1881

 上表がその結果です。3年それぞれの積算水温にはかなりの開きが出てしまいました。3年の平均は1881℃です。
  そこで、この平均の積算水温を元に、それぞれの年の理論上の放卵日を求めてみました。

前年12月15日からの積算水温

2000 2001 2003
実際の放卵日 5月2日 4月14日 3月21日
理論上の放卵日 4月13日 4月14日 4月12日
理論日-実際(日) -19 0 +22

 上図を見ると分かるように、12月15日からの積算水温のラインは3年共非常に近接しており、理論上の放卵日はほとんど4月13日前後に固まってしまいました。これは2001年の実際の放卵日(4月14日)とはよく一致しますが、2000年、2003年の放卵日とは大きくかけ離れたものでした。

 ちなみに、積算水温のスタート地点を1月1日、2月1日などにずらしてみてもこの傾向に変化は見られませんでした。

 「折角アドバイスを頂いたのにやっぱり駄目かあ〜っ」

と、今回何度目かのガックリです。もう落とす肩もなくなってしまいました。

今週の「不撓不屈」

 が、ここまで来ると諦めるのが悔しくなってきました。思い起こせば、横綱推挙の使者を僕が迎えた時、

 「横綱の名に恥じぬよう不撓不屈の精神で精進いたします」

と誓ったのでした。よし、もう一度考えよう。

 今まで僕は、「積算水温」にこだわって来ました。基礎的なことを勉強していないのでよく分からないのですが、「積算水温」というのは以下の様な考えの下で取り扱われている物だと思います。

 例えば、魚は或る水温を超えた途端、突然産卵を始めるものではないのでしょう。水温が低かったら低いなりに時間をかけて産卵の準備を整えて行くのだと思います。
 仮に、或る魚の産卵までの積算水温が100℃だとしたら、20℃の水温ならば
 
  100/20 = 5.0 (日間)

を産卵までに要すると考えられます。ところが、水温15℃だとそれが、

  100/15  = 6.7 (日間)

に延びる事になる訳です。更に水温5℃だとどうでしょう?

  100/5 = 20 (日間)

という事になります。そう、計算上は確かに20日間なのです。ところが、現実を考えて下さい。この季節、富戸の海で5℃の水温で産卵できる魚など居ないでしょう。つまり、

 「これ以下の水温ではいつまで経っても産卵しないだろう」

と思われるレベルが存在する筈なのです。ところが、今の計算の仕方では、低すぎる水温が続いても毎日毎日水温が積算されていることになります。

 そんな事を考えたのは、2月1日以降の次の水温グラフを見ていた時のことでした。

(矢印は、当該年に放卵・放精が観察された日)

 放卵日が最も早かった今年2003年の春期の水温(水色ライン)が、最も遅かった2000年(黒ライン)よりより高かったのは間違いありません。ところが、これを「2月1日から放卵日までの積算水温」として取ると下図の様になります。

 積算水温とは、図中の太線で囲まれたエリアの面積の事です。すると、今問題としている1℃や2℃の水温の差などほとんど消し飛んでしまって、2000年の積算水温(黒ライン)が圧倒しているのが分かります。

 ところが、15℃以上の水温部分にのみ注目するとどうでしょう。例として同じく2000年と2003年の様子を見てみます。


 上図で塗りつぶした15℃以上の部分の面積を比較すると、結構近いのではないかと思えたのでした。

 つまり、ナマコの放卵にとっては15℃以下の水温なんてなんの影響ももたらさないと考えるのです。大切なのは15℃以上の水温の積み重ねだけです。
 
 ここで、学者気分で「ナマコ水温」なる温度を定義します。記号は°N。読み方は「セ氏」や「華氏」にならって「ナ氏」としましょう。

 °N= ℃ - 15

です。「定義します」などと言う割には式が簡単すぎて少し恥ずかしい。「ナ氏0度=セ氏15℃」以上で、ナマコの放卵のスイッチが入ります。

 それでは、このナマコ温度の積算水温で計算し直してみましょう。算出のスタート地点は、夏眠からの目覚めと仮定した12月15日とします。これ以降から放卵日までのナ氏0°N以上の水温を足していくのです。0°N以下の温度はすべて0°N(放卵に関与しない)と考え一切計算には入れません。

 実は、この「ナマコ水温」は、6月14日(土)に富戸・ヨコバマを潜っている最中に急に思いついた事でした。

 「今度はうまい理屈になるかも知れない」

と水中でゴボゴボしながら僕はちょっと興奮してきました。この日、新しい理屈を思いついたらいつでも検算できるようにノートPCを富戸にまで持って来ていたのでした。
 残圧はまだ50程度ありましたが(この季節ならば浅場でまだ20〜30分は遊べる)、ソソクサとExして、ウェットを脱いで着替えを済ませてからPCのスイッチON。そして、新たに定義した水温をExcellシート上に並べていきます。

 「よし、準備完了」

目の前には富戸(Futo)の水温と日付が行列状(Matrix)に整列しています。専門用語でいう「Futorix」です。一度は諦めかけた解析でしたが、再起を期して再びキーを叩いてEnter(Reload)。

前年12月15日から放卵までの積算ナマコ水温
2000 2001 2003 平均
積算ナマコ水温(°N) 85.0 81.3 80.3 82.2

 結果は上のようなものです。3年それぞれの「積算ナマコ水温」の差は一見小さいように見えますが、水温の定義自体が新しいものなので、この差がどの程度のものなのかはこの時点では判断できませんでした。そこで、平均積算ナマコ水温 = 82.2°Nを元に、理論上の放卵日を逆算してみます。

前年12月15日からの積算ナマコ水温


2000 2001 2003
実際の放卵日 5月2日 4月14日 3月21日
理論上の放卵日 4月29日 4月15日 3月24日
理論日-実際(日) -3 +1 +3

 「やったぁ〜っ・・」

僕はPCのモニターを見つめながらうっとりしてしまいました。理論上の放卵日が実際とほとんどピッタリ重なりました。その誤差僅か3日程度に過ぎません。

 「嬉しい・・ 嬉しいぞぉ〜っ。 星君、僕は今、猛烈に感動している」

といつしか巨人の星になってしまいました。
 今回のナマコ水温という考え方にどんな意味があるのかは分かりません。どれだけ正確なものかも分かりません。専門の研究者の方から見れば噴飯物なのかも知れません。でも、僕が自分の手で辿り着いた到達点です。少なくとも今の自分自身を納得させるには十分な結果です。

 さて、喜んでばかりもいられません。もう少しデータを検証しましょう。
 まず、積算の起算日を12月15日から2月1日に大きくずらしてみました。ところが、実際と理論の誤差はほとんど変化しませんでした。かなり信頼できそうなデータに思えてきました。

 更に、ナマコ温度・ナ氏0度のラインをセ氏14℃に1度下げて計算してみました。すると、理論と実際の放卵日の差が10日以上に広がってしまいました。やはり、

  °N= ℃ - 15

が妥当な関係のようです。

 という事で、長い長い本当に長かったナマコの旅も今度こそ一段落です。後は、今回の仮定を検証すべく来年、再来年のナマコの放卵・放精を待つのみです。でも、こればかりは巡り合わせなので果たしてこの目で見ることが出来るのかどうかも分かりません。ですから、真の旅はまだまだ長く長く続きそうです。

 それまでは、Futorix、暫しの間 Shut downであります。

                       2003/06/15 記
  

HP表紙へ > 生き物の記録・最新へ > 生き物の記録・2003年へ > 本ページ