第411回 いいこ

 去る2月10日は、

  210 の日 = ふとの日 = 富戸の日

でした。寒さが堪える我々ダイバーにとっては有難い、海鮮BBQ食べ放題の日なのです。

 この日も、ムロアジ、ゴマサバ、ウツボ、スルメイカ、が焼き網の上にずらりと並びました。ここに、勝手に持ち込んだおにぎりや厚揚げ、シイタケ、安納芋、餅などを並べて焼き、安上がりなお昼御飯です。「食い放題」と言う美しい日本語に惹かれて次々と食い尽くしてお腹はパンパンになってしまいました。

 が、この日、僕が注目したのはこのお隣で振る舞われていた、やはり飲み放題の「海鮮みそ汁」でした。この具は年によって様々に変わり、豪勢にイセエビと言う時もあれば、ワタリガニ、キンメダイ、サバのぶつ切りと言う事もあります。そして注目の今年はこれでした。

 あれっ? ネギと海藻しか見えませんね。今年は予算カットでみそ汁はしょぼくなってしまったのでしょうか。いえいえ、今年の具は貝なのです。この汁の底にたっぷり沈んでいるのです。富戸の地元でみそ汁に入れる貝と言えば、シッタカが一般的です。


シッタカ

 三角帽子の様なこの貝の標準和名は「バテイラ」です(良く似た種に「オオコシダカガンガラ」と言う貝も居るのですが、僕には見分けが付きません)。「尻」をクイッと持ち上げた三角形に見えるから「尻高」が訛ったと聞いた事があります。富戸の海では浅場で普通に見られる3冂の小さな貝です。みそ汁にすると磯の良い香りがするし、小さいながらも身も爪楊枝でほじくり出して美味しく頂けます。

 ところが、みそ汁の具として今回採用されたのは、このシッタカではなく、こいつだったのです。

 地元では「イイッコ」と呼ばれています。恐らくはクボガイであろうと思われます。

  「へ〜っ、これも食うのか」

と驚きました。この貝は恐らくシッタカ以上の普通種であり、水深2〜3mまでの磯でごく普通に見る事が出来るのです。


ヨコバマ水深1m の クボガイ

 考えてみればこれが食えない筈はありません。そりゃそうだ。試しに、今回のみそ汁に入っていた貝の身を爪楊枝で摘み出して頬張ってみました。

  「うん、特別美味いと言う訳ではないけど、しっかりした味わいだな」

 が、実は今回注目したのはこの貝その物だけではなかったのです。この貝にはクマノコガイとかコシダカガンガラ、ヒメクボガイなど似た種が多くあるのですが、僕には見分けがついていません。ところが、同類でありながら唯一見分けが付く種があるのです。

 この2つの貝は恐らく別種なのです。でも、色々角度を変えてあちこちを見回してみてもその差はよく分かりませんね。でも、この貝を裏返してみると、

こうなっています。右の貝は、中央部に小さな穴が開いている「ヘソアキクボガイ」と言う種です。中央の穴は正式には臍孔(さいこう)と言う名があるそうですが、「さいこう」と言っても漢字はそのまんま「へそあな」ではないですか。ヘソが一体何の役に立っているのかは分かりませんが、両種は浅場の同じ環境で混じって生息しています。ただ、以前調べたところでは、

  クボガイ:ヘソアキクボガイ = 3:17

とヘソアキが優先しているようでした。が、今はそれは問題ではありません。最大の興味は、

  「両種は味が違うのか?」

と言う事です。こんな機会でもないと確かめる事の出来ないテーマです。そこで、それぞれの身をほじくり出して順に口に放り込んでみました。

  「う〜ん、どっちも一緒かな」

と、結局はどうと言う事の無い結果でしたが、あ〜だこうだと言いながら小さな貝を摘みながら過ごすのはとても楽しいひとときでした。この貝がイイッコと地元で呼ばれている理由が分かりました。本当にいいこ達なのです。

 もう、大間のマグロなんて食う必要はないじゃないですか。地元の海に育つ生き物を少しずつ頂いて送る暮らしこそ本当に豊かな生活なのだと思うのです。(とは言うものの、大間のマグロ大トロをご馳走して下さるのならば喜んでどこでも伺います。はい)

2012/02/25 記

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