第303回  さくらんぼ

 今年の春は見事な桜の花吹雪の知らせを各地から聞く事が出来ました。それは富戸の港も同じでした。河津桜から始まって城ヶ崎桜寒緋桜、そして上の写真の大島桜へと桜のバトンは見事に受け渡され、例年に無いほど長い間我々の眼を楽しませてくれました。

 しかし、花が散ってしまうと後は緑色の若葉に覆われて、背景の一部へと沈んで行ったのでした。ところが、港を望むこの大島桜をよく見ていると、花が咲いた後に小さな実が育って来るのに気付きました。

 始めはいかにも若々しい緑色の実ですが、それが徐々に赤黒く熟して来るのです。それを何となく見上げていると、地元のお年寄りの漁師さんが通りがかり、

「昔は、物が無かったから子供はこれを食ったもんだ。取り合いにならん様に年上のにいちゃんが小さい子らに分けたんだ」

とのこと。ええっ? これ、食べられるんですか? ま、桜の実だから「さくらんぼ」と言えなくもないだろうし、色合いはアメリカン・チェリーと見えなくもない。そう言えば、最近果物屋さんでは佐藤錦などの高級さくらんぼが出回り始めました。

「ま、あそこまで甘くはないだろうけど、子供が取り合いをしたと言うくらいなら・・」

と僕も、コッソリ一つだけもいでみました。触った感じはさくらんぼよりずっと硬そうです。

  「さて、お味のほどは?・・」

と一口。すると、

ガリガリッ。

  「うわっ、ペッ、ペッ、ペッ」

とても硬く、しかも不味い! こんな物を子供らがどうして奪い合っていたのか全く理解が出来ません。しかし、これはまだ熟し切っていないせいかも知れません。そこで、翌週にもう一度黒々した実を試食してみたのですが、やはり、

  「うわっ、ペッ、ペッ、ペッ」

でした。中年の僕ですらこの旨みは理解出来ないと言う事です。ましてや、今の子供達ならば見向きもしないでしょう。はぁ、まさしく、

  「昭和は遠くなりにけり」

なのでありました。

2008/06/12 記

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