第281回  木枯らし1号

 今年の8月は絶好の海況が続き、「明るく穏やかで暖かい海」の日々が続きました。でも、お天気の神様が、

  「じゃあ、そろそろ夏の貸しを返して貰おうかな」

とでも考えたのでしょうか、9月中旬以降、富戸の海のうねりが収まらなくなってしまいました。

  「今日は比較的穏やかだな」

と思える日でも浅場は何だかザブザブしています。だから、この季節一番楽しみな、Exit 直前の水深 1mでのネチネチ・ダイビング、別名:極浅(ごくせん)ダイブから長らく遠ざかる事になってしまったのでした。

  「もうそろそろ落ち着いてよ〜っ」

と思っていたところ、この前夜から台風並の強烈な西風が吹き荒れました。夜の間、ゴーゴーと不気味な唸りを上げていました。遂に木枯らし1号の到来です。でも、僕はこの風音を聞きながら、

  「よしっ!」

と寝床の中でガッツポーズでした。この風を待っていたのです。ダイビング・エリアに押し寄せる波をこの西風が追い返して呉れ、一転、穏やかな海が到来する筈です。

 そして一夜明けて富戸の港に行ってみると、案の定、夜来の風で散った落ち葉や枝で道路上は一杯です。温泉丸にも松葉が積もっています。でも、目を海側に転じると、

 来た、来た、来た〜、これを待ってたのよぉ〜っ。前日まで微妙な波が押し寄せていた脇の浜もベッタベタになりました。青く澄んだ空、青く穏やかな海、富戸の海にも冬の訪れです。

 穏やかな浅場が嬉しくて、この日は久し振りに、Exit 直前の水深 50cm で粘ってしまいました。

  「これよ、これだよなぁ〜」

とマスクの中の僕の顔も緩んでいた事でしょう。Exit してからは、この強い風のせいでブルブル震えてしまうのですが、何の何のその為に温泉丸があるのですから我慢しましょう。

 この西風が続けば、表層の水が沖へ押しやられ、深場の冷たく澄んだ海水が沿岸に上がって来ます。富戸の海も愈々冬支度に入ったのでした。

2007/11/19 記

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