第279回  海鮮みそ汁祭り

 

 もう、いつまで続くのかと思うほど、北東からの風とうねりは収まりそうにありません。でも、漁師さんを除けば、そうして嘆いているのは恐らくダイバーだけではないでしょうか。真っ青な空の下でドドドッと砕ける波は勇壮な光景にも映ります。ここでいつもならば、ダイバーである事の身の不幸を嘆くところなのですが、この日は、

  「そうかぁ、ほう、ほう、ほう。まだうねりがあるかぁ」

と笠智衆の様な笑顔で、海を見下ろすのでした。何の魚を見た、こんな稀種が居たなんて小さい、小さい。僕の視点はもっと高い所にあったのでした。

 そう、この日は年に一度の海鮮みそ汁祭りの日です。キンメやイセエビ入りのみそ汁を無料でドドドンッと振舞って頂けるのです。ありがたやありがたや。但し、文化の日の休みに例年開かれるこの催しに今年は異変がありました。いつもは港の脇にある網干し場が会場となるのですが、それが、港から歩いて20分程のコミュニティー・センターに引っ越してしまったのです。ですから、これまでは朝一番に潜ってからテクテク歩いて出掛けていたのですが、今年は少し遠足気分となります。そこで、

  「今日はみそ汁祭りが最優先なんだから朝イチのダイビングはあっさりと」

と思っていたのですが、なんだかんだ海の中を覗いていたら、結局90分以上のダイビングになってしまいました。

  「いかん、いかん」

と大慌てで温泉丸で体を暖めてから、10時半の開始に向けてダッシュしたのでした。すると・・

  「おおっ」

既に100人以上の行列です。今年から会場が変わったので、参加する人が減る → うまうまのみそ汁お代わりし放題 と考えていた僕は少しがっかりです。

 そうする内にも列は進み、さあ、愈々僕の順番が回って来ました。大鍋からはお出汁のいい香りが立ち昇っています。

  「うほほ〜」

 ほら、ちゃんとイセエビも入っていますよ。冷凍品の売れ残りなのかなとも思いますが、今回ばかりは仮に賞味期限切れでも何でも大歓迎。ずずず〜っ、と一口頂いて、

  「ぷは〜っ、おいしいなぁ〜」

脇のテントで買ったおにぎり(2つ100円)とイカ飯(200円)と一緒に忽ち平らげてしまいました。

  「よしっ、ウォーミング・アップは終了。では、2杯目頂こうかな」

と立ち上がってびっくり。

 あれっ、先ほどまでの人出が潮が引くように収まって、お鍋の前がシ〜ンとしています。スタッフの皆さんの姿ばかりが目立ちます。普段は厚かましい僕もなんだか気恥ずかしくなっておずおずとお代わりです。そして、それを頂くと更にもう一杯。居候でも3杯目はそっと出し、バカの3杯汁とか言われていますが、僕は全く気にする様子もありません。

 それにしても、急に寂しいみそ汁祭りになってしまいました。これまでは道路沿いの網干し場が会場だったから通り掛かりの観光客の人たちもちょっと覗いてという気持ちで参加したのでしょうが、道路沿いから少し外れた今年の会場では地元の人達中心のお祭りになってしまったのかな。 それに、例年はみそ汁だけでなく、干物屋さんが七輪でイカやアジを焼いていていい匂いが漂っていたり、焼き芋が売っていたり、地元の植木屋さんの出店があったりして賑やかなのですが、今年は会場が狭いせいか、それらのお店も見当たりません。地元の小学生の研究発表も楽しかったのにな。

  「日本の政治だけでなく、みそ汁祭りも曲がり角に来ているのかな?」

と大層な事を考えながら、

  「さすがに4杯目のお代わりは図々しいかな」

と逡巡する秋の一日でした。

2007/11/05 記

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