第112回   アオザメ - その2

第111回 「アオザメ - その1」 より続く

 さて、富戸の漁師さんが作ったサメの顎の標本。この正体は一体何なのでしょうか。漁師さんのいうアオザメと言うのは単なる地方名なのでしょうか、それとも標準和名「アオザメ」を指しているのでしょうか。


 サメの歯の形というのは、その種の特定の重要なキーポイントになるほど種類によって様々なのだそうです。

 その形は凡そ次の3種に分けられます。


 まず、剃刀の様に薄くて縁が鋭い「切る歯」。次いで、細長い「刺す歯」。そして最後が丸みを帯びた敷き石状の「押さえる歯」です。これらはそれぞれのサメがどのような物をどのように食べているかを現している事にもなります。

 例えば、ネコザメの歯が正しく「押さえる歯」の形をしているのは僕も海の中で見た事があります。目の粗いヤスリの様に小さなブツブツがビッシリ並んでいました。貝や甲殻類をバリバリと押しつぶして食べる彼らにはそれが最適なのでしょう。

 さて、歯の形で面白いのは、上顎と下顎の歯で様々な組み合わせがあるという事です。上顎/下顎で、切る/切る、刺す/刺す、押さえる/押さえるという組み合わせも勿論あるのですが、中には、切る/刺す、切る/押さえる、刺す/切る、押さえる/切るなどの組み合わせのサメもそれぞれ居るのだそうです。
 そして、今問題となっているアオザメ(標準和名)は刺す/刺すなのだそうです。上の写真を見ると、今回の標本のサメも刺す/刺すの形です。

 「おっ、やっぱりこれは本当にアオザメなのかな?」

との期待が一気に高まってきました。

 そこで、アオザメと間違えそうな他のサメと歯を比べてみました。


 上は、アオザメの属するネズミザメ科のサメたちの歯です。まずホホジロザメ。こいつは、人を襲うサメとして時々話題になる奴ですね。彼らの歯は縁に鋸の様なギザギザが付いています。次いでネズミザメ。彼らの歯の根元には小さな鋭い出っ張りが一つずつあります。そして、アオザメとバケアオザメだけがストレートな「刺す歯」を持っているのです。
 ふむ、今回の標本の歯はやはりアオザメのものと一致しそうです。

 という事で、全てのサメの歯が調べられた訳ではありませんが、今回のサメは「アオザメ」としてもよさそうです。小さな手掛かりからかなりの所まで詰める事が出来て、ちょっとしたシャーロック・ホームズ気分を味わう事ができました。

 そこで、続いて

 「アオザメってどんなサメ?」

という事を調べていたら、これが面白そうなのです。

 かの文豪・ヘミングウェーの名作「老人と海」に登場するのがこのアオザメなのだそうです。

 「何処で出てきたのかな?」

老人が数日かかって釣り上げたのは確かカジキだったと思います。という事は、それを舟の舷側に括りつけて港に帰るときに、襲ってきて食い散らかしたのがこのアオザメだったのですね。そうかあ、そんな所にも顔を見せていたのかあ。と何やら急に親しみが湧いてきました。

 更に興味深いのが彼らの遊泳能力です。アオザメはサメの中では最も速く泳ぐと考えられており、2130Kmを37日間で泳いだ(58Km/日)記録があるのだそうです。そんな能力を支えているのが彼らの体温調節機能です。

 変温動物であるはずのマグロ類が、海水温より高い体温を維持しながら泳ぎ続けているというのはよく知られています。が、それと全く同じ機能がアオザメにもあったのです。そんな所で繋がりがあったなんて面白いですね。

 が、アオザメへの興味はそれだけに留まりません。ドンッ(と、机を叩く)。ここからは、是非、富戸の漁協関係者の方に読んでいただきたい!
 アオザメというのは肉質が極上の食用魚なのだそうです。欧米ではアオザメのステーキは美味とされており、このサメの「ふかひれ」というのは最高級品に属するんですって。

 これは、食いたい! 是非食いたい! 今回のアオザメは、骨格標本用に頭を切り落としてから他は海に捨てられたのだそうです。惜しぃ〜〜っ。この次は身の一部だけでも切り落としましょう。そして、ちょっとでいいから食べさせて〜〜っ。

参照:
  • 「サメのおちんちんはふたつ」 仲谷一宏、 築地書館
  • 「サメウォッチング」 V. スプリンガー、J. ゴールド、 平凡社
  • 「日本産魚類検索」 中坊 徹次、東海大学出版会

2003/10/23 記

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