第79回  カシミール

 ダイビングを始める以前、僕は休みの日にはよく山歩きに出ていました。夏休みには北アルプスや南アルプスへの山行に汗を流していたものです。長い時間を掛けて山頂に辿り着いた時、一番の慰めは大パノラマの展望でした。
 国土地理院の5万分の1の地図と遠くに見える山影を見比べて、

 「あの山は・・・」

なんて思わぬ遠くの山を見つけるのは大きな楽しみの一つでした。
 1987年、そんな僕にとって待望の本が出ました。

 「展望の山旅」 藤本一美・田代博 著、 実業之日本社

という本です。これは、関東の主だった山の頂上から見える展望をスケッチし、眼前に広がる一つ一つの山がどこの何と言う山なのかを同定してまとめたものです。それまで

 「あれは何処の山なのかなあ」

と遠くに薄っすら霞む山影に目を凝らしては首を傾げていた僕らには大きな福音となったのでした。
 ところが、その頃は現在の様な時代が来ようとは想像もしていませんでした。

 そう、今や、同じ事がPCモニター上で出来るようになったのです。僕らが大切に折り畳んでいた国土地理院の地図は今やすべてデジタル化されて「数値地図」と呼ばれるものになりました。それを元になにやら難しい計算をゴチャゴチャしてやれば、どの山からどんな景色が見えるのかがたちどころに表示されるようになったのです。
 そのようなソフトウェアの中で有名なのは「カシミール」と呼ばれるものだと思います。数ヶ月前、そのガイドブックが本屋さんに並んでるのを見て、

 「そうかあ、もうこんな時代になったのかあ」

と僕は時代の流れの速さにため息をついたものでした。でも、敢えてそんなものを買おうとは思いませんでした。

 さあ、それで「富戸から三浦半島や房総半島が見えるのか」という事です。前回の「ピタゴラスの定理」で、簡単な計算によるとそれらは見えそうにない事をご紹介しました。でも、ここまで首を突っ込んだ以上もっと正確な事が知りたくなってしまいました。それで思い出したのが、「カシミール」の事だったのです。

 「よしっ。こうなったらハイテクの力を借りて決着を付けよう」

と腹を括って、今日の仕事帰りに閉店直前の本屋さんに飛び込んで件の本を購入したのでした。

 「カシミール3D 入門」 松本智彦 著、実業之日本社、\ 1,900

です。使い方は簡単。モニター上の地図の中で富戸の位置を指定してやれば、そこから見える山が一覧表になって出てくるのです。ジャジャーン。

山 名 標高 (m) 富戸からの
距離 (Km)
方向
(北からの角度)
大楠山
(三浦半島)
241 59.8 48.9
鋸山
(房総半島)
329 70.9 65.4
愛宕山
(房総半島)
408 81.6 72.4
富山
(房総半島)
350 71.9 71.6
大山
(房総半島)
194 59.4 82.5

 おお〜っ、やはり大楠山も愛宕山も見えるのですねえ。方向も、富戸で見た黒い影と概ね一致しています(前々回の本コーナー「水平線」を参照下さい)。
 更に、このソフトでは、富戸からの見える景色も表示してくれるのです。

 別に表示されているデータだと、それぞれの山は水平線から角度にして1°以下ですから本当に微かに頭を出しているだけなのです。よくぞ、これが肉眼で見えたものですね。

 「ふう〜っ」

何だか一人で騒いでいるだけの様な気もしますが、これで一息つく事が出来ました。

 「それでもなあ〜っ」

こんなにアッサリ図まで出されてしまうとちょっと味気ない気がして来ました。

 「あの影は何なのかな〜っ」

とあれこれ思いを巡らしていた方が楽しかったような気もします。でもでも、コンピューターは所詮コンピューターです。土曜日の「旗振り統一行動」は予定通り行いますよお。みなさん、相模灘を隔てて声を掛け合いましょう。

2003/01/29 記

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