「幸福の黄色いハンカチ」という映画をご存知でしょうか(自分の世代にとっては当たり前の事をこの様に尋ねるとき、「ああ、歳をとったなあ」と実感します)。誤って人を殺した男(高倉 健)が、十年に近い刑期を終えて出所したのですが、妻の下に帰るに帰れず、
「もし、俺を許して呉れるなら、家の窓に黄色いハンカチを吊るしてお
いて呉れ。それが無かったら俺は黙って立ち去る。もうお前の所に
は二度と姿を見せない」
という手紙を出します。
「さて、ハンカチは出ているのか?」
というのがクライマックスな訳です。
北東の風がやや強く感じられ、脇の浜を見るとやや波が高そうに見える時、僕は急にソワソワして来ます。
「さて出ているのか? やっぱり出ているのか?」
と気を揉むのがこの小さな「潜水注意」のタグです。
「潜水禁止」ならばよいのです。諦めもつきます。
「しょうがない」
ところが、潜水注意だと、単独潜水のみが禁止されるのです。海洋実習初日のオネエチャン達が楽しげに話しているのを横目に僕はじっと唇を噛むのです。その姿が余りに哀れなのか、潜水注意の日にはダイビング・サービスの人が必ず、
「どうも、すみませんねえ」
と声を掛けてくださいます。
「いえ、自然のことですから仕方ないですね」
と、僕はギリギリ大人の受け答え。ああ、僕にとっては「不幸の白いタグ」なのです。
僕は、ダイビングが目的と言うより富戸が目的なので、そこが駄目だとなると、さっさと帰るのみです。大瀬に回るなんて潔しとしません。また、「見たいものを、見たい所で、見たいだけ」がダイビングの楽しみなので、誰かに声を掛けてバディー・ダイビングしようとも思いません。
器材を抱えて、波立つ富戸を後にする僕の背中には男の哀しみが漂って居るのでしょう。温泉丸のダイバーからは、
「いよっ、健さん !!」
の声が掛かるのでした。
2001/09/30 記
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