第169回  イソギンポ


   
*  *  *  *

 これは5年ほど前のこと。脇の浜は、穏やかな砂紋が続く落ち着いた海でした。水深10m程度に、僕が「3本パイプ」と呼んでいる場所がありました。恐らく、工事現場か何処かから投棄されたものと思われるのですが、コンクリートから3本の中空パイプがニョッキリと飛び出していました。そして、その1本1本にイソギンポが定住していたのです。今にして思えば、此処こそ初代「メゾン・ド・ギンポ」と言える場所でした。

 イソギンポは、かなり浅い場所で暮らしているのが普通なので、我々ダイバーは意外と見過ごしてしまいがちです。それが、水深10mという丁度いい塩梅の場所に現れて呉れたのですから定点観察にはおあつらえ向きでした。ただし、その頃は、特に問題意識があった訳でもないので、通りがかるたびに

 「おお、今週も居る居る」

と覗き込んでいるだけでした。すると、ギンポ類特有のニッコリ笑顔でパイプの中から顔を出して、愛想を振り撒きながらパイプの中でクルクル回るのでした。ギンポの仲間はそれぞれ特有のヘアー・スタイルを持っているのですが、僕はイソギンポのこのツンツン・ヘアーが一番好きです。

 「毎朝、鏡を何十分も覗き込んではディップで髪をそそり立たせ
  ているのかなぁ」

なんて想像してしまいます。

 そんな3本パイプも、その年の年末、巨大漁礁の造成で大きな岩に全て押し潰されてしまいました。

2004/11/01 記 
  

HP表紙へ > 民俗博物館・最新へ  > 本ページ > 民俗博物館・五十音分類へ