第301回  復讐する海

N. フィルブリック 著
相原 眞理子 訳

集英社 刊

ISBN: 4-08-773403-X

\ 2,300 + 税

2003/12/20 初版発行

298 頁

縦x横x厚; 19.5x13.9x2.3 cm

 本書は、捕鯨の歴史をあれこれと調べていた時にたまたま見つけた本でした。コーンウェルの「検死官」シリーズの翻訳でよく知られた相原眞理子さんが訳者である事にも興味を惹かれました。

 本書で取り上げられているのは、1821年にアメリカ東岸のマサチューセッツ州のナンタケット(当時の世界的な捕鯨基地)を出たエセックス号の3年余りに亘る怖ろしくも悲劇的な航海です。アメリカではよく知られたお話で、メルビルの「白鯨」もこのエセックス号の物語に想を得たものなのだそうです。

 まず、当時の人々の捕鯨への執念に驚かされます。本書の主人公でもあるエセックス号も、アメリカ北東岸から大西洋を横断してアフリカ付近まで行くと南進した後、再び大西洋を渡り、南米の端っこのホーン岬を通って太平洋へ、そして北上して赤道直下まで。この航海をすべて帆船でこなすのですから、船酔いし易い僕なんかは想像しただけで酸っぱい物が喉に上がって来ます。そうして、エセックス号は太平洋の真ん中でマッコウクジラの体当たりに遭って沈没してしまうのです。そうして乗組員は3隻のボートに分乗して3ヶ月余り、5000km 以上にもの漂流を続ける事になるのです。

 食料と水を少しずつ分けながらのいつ終わるとも知れない漂流の中で、次々と死んで行く乗組員。そして、当然持ち上がるであろう、

  「彼らの死体を食べて生き延びよう」

との考え。更には、くじ引きをして死ぬ者を決めようとするまでの怖ろしい展開。

 と書けばかなりおどろおどろしい内容と思われるかも知れませんが、筆者の抑えた筆致は冷静に淡々と事実を書き連ねて行きます。そのお陰で単なる「ゲテ物」本になる愚を免れる事が出来ています。そして、本書を骨太の記録としているのは、当時の捕鯨を巡る時代背景までもがしっかり書き込まれていることでしょう。

 今から200年前のこの時代に、欧米の人々は各地で鯨を獲り尽くしていたのです。そして、鯨資源がなくなったらまた新たな漁場を求めて遠くへと言う事を繰り返していたのでした。そして、ガラパゴスの陸亀も航海中の食料(1年間餌を遣らなくても生きているそうです)として獲り尽されたのでした。ガラパゴスの或る島では、このエセックス号の乗り組み員の一人が仲間を驚かそうと草に火を着けたところ、それが全島に燃え広がり多くの生物が絶滅したと言う事もあったのだそうです。今なら信じられない様な環境破壊です。

 あと先考えずに目先の欲得だけで動くという人間の本性は今も昔も変わってはいないんだなぁと、そちらの方が怖ろしくもなったのでした。

2008/06/26 記

HP表紙へ > はてなの定置網・最新へ > 分類別書庫へ