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さかなクン 著 リヨン社 刊 ISBN: 978-4-576-07071-1 \ 952 + 税 2007/05/30 初版発行 40 頁 縦x横x厚; 19.3x13.4x0.8 cm |
エリック・ドルフィーというジャズ・プレーヤーをご存知でしょうか。1960年頃にジャズ界を席巻し、1964年、36歳の若さでこの世を去った伝説のミュージシャンです。彼の主な楽器はアルト・サックスなのですが、バス・クラリネットの演奏も数多く録音されています。僕はその演奏を初めて聞いた時、
「カッコいい〜っ」
と痺れ、後に古道具屋でバス・クラリネットを買うまでになりました。しかし、この楽器は普通は脇役に過ぎず、ブラス・バンドなどでもいつも隅の方に配置されています。そのバス・クラリネットの演奏を先日久し振りにテレビで見ました。その奏者というのが何とあのさかなクンであったのです。しかも、大変上手でした。さかなクンは、何と、中学・高校と吹奏楽部に居たのだそうです。その理由と言うのが面白いのです。幼い頃から魚好きだったさかなクンは、友達に
「吹奏楽部を見に行こう」
と誘われた時に、「水槽がたくさんある所」と勘違いして入部を決めたのだとか。このエピソードと、バスクラリネットの演奏で僕はさかなクンを一挙に身近に感じる様になりました。
さて、本書は、朝日新聞で「いじめられている君へ」として連載されていた記事の内、さかなクンの一文をまとめたものです。このシリーズは、現実に今いじめを受けている子供達に各界の人々が呼びかける形で進められていました。
さかなクンは、吹奏楽部に居た時に自分が受けたり、見たりしたいじめを取り上げ、それを
「さかなの世界と似ていました」
と語ります。自身が嘗て15匹程のメジナの稚魚を水槽で飼った時、それらが成長し始めると共に、或る1匹が威張りだして別の1匹を攻撃し始めたのだそうです。そこで、傷ついたいじめられっ子を別の水槽に移してやると、いじめっ子メジナは別の1匹に標的を変えたのでした。そこで、今度はいじめっ子の方を別の水槽に移すと、残った稚魚の中から別の1匹が威張りだしました。そこで、さかなクンは言います。
「広い海のなかなら、こんなことはないのに、
小さな世界に閉じ込めると
なぜかいじめが始まるのです」
そして、
「広い空の下、広い海へ出てみましょう」
と結ぶのです。非常に短い一文で、直ぐに読めてしまいます。しかし、深い味わいがあります。正直言って、文章はもう少しうまく書ける様にも思うのですが、それだけに、
「ああ、この人は本当に心の中にある事を語っているんだな」
と言う誠が感じられるのです。
さかなクンは、普段の生活でもTVで観るのと同じテンションと声なのだそうで、傍にあんな人が居たら確かに疲れるだろうなと思います。それ故、いじめを受け易かったんだろうと言う事は容易に想像出来ます。しかし、さかなクンには「魚」が居て、それが彼の「広い海」になり得たのです。
本書の後半には、彼の生い立ちが自身の口から紹介されています。それがまた驚きなのです。さかなクンが最初に魅了された海の生き物は、小学校2年の時に見たタコだったのだそうです。魚屋さんで、或いはおでんダネのタコを飽かず眺めてはその絵を書いていたのだとか。やがて、お母さんに頼んで、1ヶ月間毎日タコを食卓に出して貰うまでになったのでした。更に、あの大学者の奥谷喬司さんに、
「タコ博士になりたいです」
という手紙までだしたのだとか。やっぱり双葉より芳ばしかったのですね。
TVでのさかなクンの取り上げ方は「奇矯の人」という色合いですが、あの豊富な知識と、何より他を寄せ付けない鋭敏な舌は、地道な努力の結果であるに違いありません。
「さかなクン バスクラリネット・コンサート」なんてあったら是非聴きに行きたいなと思わせる1冊でした。
2007/12/18 記
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