第264回  生物と無生物のあいだ

福岡 伸一 著

講談社現代新書

ISBN: 978-4-06-149891-4

\ 740 + 税

2007/08/25 初版発行

288 頁

縦x横x厚; 17.2x10.6x1.5 cm

 本屋さんで眼に入った本書のタイトルが非常に印象的に映ったので思わず手に取ってしまいました。そして、その前書きを読んで更に惹き付けられてしまいました。そこにはこうありました。

「人は瞬時に、生物と無生物を見分けるけれど、それは生物の何を見ているのでしょうか」

 実は、僕も似た様な事を海の中で感じた事があったのです。魚をはじめとした動物の場合は、その名前にもあるように、

  「動いていたら生きている、動かなくなったら生きていない」

と言ってしまえばよいかも知れません。でも、植物の場合はどうでしょう。海の中で言えば、海藻の場合です。岸に寄せる風が強い日には沢山の流れ藻が打ち寄せられます。海に潜ってそれを見ると、中にはくすんだ色に変わってしまっいるホンダワラもあります。

  「これはもう枯れてしまってるんだろうな」

と思うのですが、よく見ると茎(?)の先に生殖器床がしっかりと育っています。死んでいるものが新たな命を繋げる筈はありません。このホンダワラはまだ生きているのです。

  「じゃあ、このホンダワラはどうなったら死んでいると言えるんだろう」

或る部分を顕微鏡で見ていたら、

  「『あっ、今死んだ』って言えるんだろうか?」

などと思い巡らしていたのでした。

 さて、本書です。僕はたまたま本屋さんで見つけたのですが、新聞でも特集記事で最近紹介されていたので、かなり売れている本のようです。

 内容は、分子生物学の歴史と著者ご自身の研究の経緯を重ね合わせた展開になっています。これが面白いのです。DNAや遺伝子の話になると、「ナンタラ遺伝子」とか「カンタラ酵素」という名前が滅多矢鱈と出て来て大抵チンプンカンプンになってしまいます。そのくせ、実際に分子のレベルで進行している事が全くイメージ出来ません。

  「これが一般の人々に理解されると書いている人は思ってるのかな?」

とちょっと腹を立てる事もしばしばです。ところが、本書ではその様な混乱を招きそうな記述を避けながらもこの分野の本質にかなり踏み込んでいます。しかも、それがドラマ仕立てと思える展開で非常に魅力的な文章で表されているのです。

 その一方で、アメリカの大学で最前線を走らねばならない研究者としての厳しい日常もスリリングに、そして或る場面では叙情的に描かれています。

 さて、冒頭の、

  「生物と無生物はどこで線を引けるのか」

という大問題に戻ります。期待していた研究成果を得られず落胆した中から、著者は逆に、

  「生命とは」

という結論に到ります。それは本書を読んでいただくとして、残念ながらその最後の結論が僕にはしっくり来ませんでした。理屈としては理解はできるのですが、胸の中で、

  「ああなるほど!」

とストンと落ちるものがなかったのです。その辺は、読む人の「好き嫌い」にひょっとしたら属する事なのかも知れません。

 でもいずれにしても、「これは売れるのが分かる」と納得出来る一冊でした。

2007/09/06 記

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